年末調整の申告書、回収とチェックの実務──令和8年分の要点

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年末調整の申告書、回収とチェックの実務──令和8年分の要点

年末調整の申告書は、配って回収すれば終わりではありません。実務で手間がかかるのは、提出された内容が控除の要件を満たしているかを確かめ、足りないものを差し戻す工程です。シリーズ第2回は、扶養控除等(異動)申告書と、基礎控除申告書・配偶者控除等申告書・特定親族特別控除申告書・所得金額調整控除申告書(4つの兼用様式)の回収とチェックを扱います。結論を先に言えば、令和8年分は扶養親族等の所得要件が「62万円以下」に変わったため、「去年は対象外だった家族」の拾い漏れと、配偶者などの所得を旧ルールで見積もる誤りが一番の注意点です。保険料控除申告書は次回、住宅ローン控除と中途入社者は第4回で扱います。

目次

年末調整で回収する申告書と、それぞれの役割

年末調整は、扶養控除等(異動)申告書を提出している人について行います。この申告書は原則としてその年最初の給与の支払を受ける日の前日までに提出されているものなので、11月に新しく集めるのは、主に基礎控除申告書等の兼用様式と保険料控除申告書です。まずは「誰から、どの申告書を、何のために」集めるのかを整理しておきます。

令和8年分の年末調整で使う申告書
扶養控除等(異動)申告書 扶養控除、障害者控除、寡婦・ひとり親控除、勤労学生控除。年初に提出済みのものの異動の確認が中心
基礎控除申告書/配偶者控除等申告書/特定親族特別控除申告書/所得金額調整控除申告書 4つで1枚の兼用様式。本人の合計所得金額の見積額から基礎控除額を求め、配偶者・特定親族・所得金額調整控除も同じ用紙で申告する
保険料控除申告書 生命保険料・地震保険料・社会保険料(本人が直接支払った分)・小規模企業共済等掛金(次回解説)
住宅借入金等特別控除申告書 2年目以降の人。税務署から本人に交付されたもの(第4回で解説)

最初に確認したいのは、扶養控除等申告書の提出漏れです。この申告書を出していない人は年末調整の対象外になり、毎月の源泉徴収も乙欄で計算されているはずです。国税庁の「年末調整チェック表」も、提出できる人で提出漏れとなっている人がいないかを最初の確認項目に挙げています。入社手続のときに回収できていなかった人がいないか、給与システムの甲欄・乙欄の設定と突き合わせておきます。

令和8年分は「所得要件」が変わる──判定の目安を手元に

申告書のチェックで一番時間を使うのが、家族の所得が要件の範囲に収まっているかの確認です。令和8年分は、給与所得控除の最低保障額が74万円に引き上げられ、扶養親族等の所得要件も改正されました。従業員から「パートの収入はいくらまでなら扶養に入るのか」と聞かれることも多いので、給与収入の目安とあわせて担当者の手元に置いておくと便利です。

令和8年分の所得要件と給与収入の目安(所得が給与だけの場合)
・扶養親族・同一生計配偶者 合計所得金額62万円以下(給与収入136万円以下)
・配偶者特別控除の対象 合計所得金額62万円超133万円以下(給与収入136万円超207万円以下)
・特定親族特別控除の対象 19歳以上23歳未満の親族で合計所得金額62万円超123万円以下(給与収入136万円超197万円以下)。控除額は最高63万円
・勤労学生控除 本人の合計所得金額89万円以下(給与収入163万円以下)
・配偶者控除・配偶者特別控除を受ける本人 合計所得金額1,000万円以下(給与収入1,195万円以下。所得金額調整控除の適用がある場合は1,210万円以下)
年齢の基準日は12月31日。控除対象扶養親族は16歳以上(平成23年1月1日以前生)、特定扶養親族・特定親族は19歳以上23歳未満(平成16年1月2日〜平成20年1月1日生)、老人扶養親族は70歳以上(昭和32年1月1日以前生)。

ここで気をつけたいのは、家族の「収入」と「所得」の区別です。申告書に書くのは合計所得金額の見積額で、家族の所得が給与だけなら、改正後の給与所得控除を差し引いた額になります。国税庁のチェック表も、配偶者や特定親族の合計所得金額が改正後の給与所得控除額を適用して計算されているかを確認項目にしています。昨年の感覚で「103万円」「150万円」といった数字で判断していないか、案内の段階で注意を促しておきます。

扶養控除等(異動)申告書は「異動の申告漏れ」を探す

扶養控除等申告書は年初に出してもらっているため、11月の確認は「年の途中で変わったことが申告されているか」が中心です。国税庁は、異動申告が必要な場面として次の4つを挙げています。

異動申告が必要になるとき(本年の中途で)
・家族の就職や結婚などで、控除対象扶養親族の数が減った
・本人が障害者、寡婦、ひとり親、勤労学生に該当することになった
・同一生計配偶者や扶養親族が障害者に該当することになった
・所得要件や給与所得控除の改正により、新たに扶養控除等の対象となる家族ができた
あわせて確認すること
・別居の扶養親族は、生活費の送金など生計を一にする事実があるか
・寡婦、ひとり親、勤労学生に該当するのは本人か
・16歳未満の扶養親族を「住民税に関する事項」欄に記載しているか
・国外居住親族は「親族関係書類」「送金関係書類」(一定の場合は「38万円送金書類」等)があるか

今年特有なのが4つ目です。所得要件の引上げで、例えば給与収入が130万円前後の家族は、昨年は扶養親族に当たらなくても今年は当たる可能性があります。ただし、本人が何もしなければ申告書には載ってきません。会社側から「去年は対象外だった家族も、今年は対象になるかもしれない」と声をかけることが、拾い漏れを防ぐ一番の手立てです。

もう一つ、判定を誤りやすいのが19歳以上23歳未満の子です。合計所得金額が62万円以下なら扶養控除(特定扶養親族・63万円)で、扶養控除等申告書に記載します。62万円超123万円以下なら特定親族特別控除で、兼用様式の特定親族特別控除申告書の欄に記載します。アルバイト収入のある学生の子がいる人には、収入の見込みをどちらの申告書に書くかまで案内しておくと、差し戻しが減ります。

基礎控除申告書等は「見積額」の書き方で間違える

兼用様式は、本人と家族の「その年の合計所得金額の見積額」を書く書類です。年末調整は12月の給与の確定前に行う手続なので、見積りになるのは避けられません。そのうえで、間違いやすい点は決まっています。

兼用様式のチェックポイント
・基礎控除 本人の見積額に、他の勤務先の給与や給与以外の所得(副業など)も合計しているか。基礎控除額は合計所得金額489万円以下なら104万円で、昨年分と金額が異なる
・配偶者控除・配偶者特別控除 配偶者の所得だけでなく、本人の合計所得金額に応じた控除額になっているか。控除と特別控除の区分は正しいか
・特定親族特別控除 対象の年齢・所得の範囲に入っているか。特定扶養親族と二重に申告していないか
・所得金額調整控除 本人の給与収入が850万円を超え、本人が特別障害者であるか、23歳未満の扶養親族などがいるか。夫婦の両方が要件を満たせば、両方が適用を受けられる
家族の所得の見積りが外れて要件を外れた場合は、年末調整のやり直しや本人の確定申告で直すことになります。見込みが微妙な人には、12月までの収入を確かめてから書いてもらうよう案内を。

チェックの順番は、①提出漏れと記入漏れ(署名・マイナンバー欄の扱いなど会社の運用に沿っているか)、②年齢と生年月日、③所得の見積額と区分、④控除額の計算、の順で見ると効率的です。年調ソフトや給与システムで控除額が自動計算される場合でも、①〜③の入力が正しくなければ結果は正しくなりません。ソフトが自動で弾けない「生計を一にしているか」「別居の家族への送金があるか」といった事実の確認が、担当者の仕事として残ります。

回収の段取り──案内文と期限で差し戻しを減らす

給与の支払者が一定の要件を満たしていれば、従業員は書面に代えて、申告書に記載すべき事項を電磁的方法で提供できます。紙で回収するか、年調ソフトやクラウドの給与システムで回収するかにかかわらず、差し戻しを減らすカギは配付時の案内にあります。案内から回収の電子化も進んでいて、メールが送られ、そのリンクから回収することになりますが、管理部からの案内はスルーされがちです。あわせて朝礼等で周知徹底することが必要です。

案内・配付
改正点と期限
→
回収
未提出者を追う
→
チェック
年齢・所得・区分
→
差し戻し
理由を具体的に
→
確定
給与計算へ

案内文に入れておきたいのは、提出期限、今年の改正点(基礎控除額の変更と所得要件62万円)、家族の所得は「収入」ではなく「所得」で書くこと、そして「去年は対象外だった家族も確認してほしい」という一文です。国税庁の「年末調整がよくわかるページ」には、従業員への周知に使える文例や各申告書の記載例が掲載されています。申告書の書き方に答えるチャットボット「税務職員ふたば」も令和8年10月頃から令和9年1月下旬まで公開される予定なので、従業員からの問い合わせ先として案内しておくと担当者の負担が軽くなります。

差し戻しは「記載に不備があります」ではなく、「お子さんの今年の見込み所得が62万円を超えるため、特定親族特別控除の欄に書き直してください」のように、どこをどう直すかまで伝えると往復が1回で済みます。来年の毎月の源泉徴収に使う令和9年分の扶養控除等申告書も、この時期に一緒に回収しておくと効率的です。全体のスケジュールは前回の「年末調整の全体像とスケジュール」で整理しています。

申告書の電子回収から控除額の計算、源泉徴収票の作成までを一つのシステムでつなぐと、チェックと差し戻しの手間はかなり減らせます。選び方は「給与計算・労務のクラウド化、何を基準に選ぶか」でもまとめています。

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まとめ──今年は「家族の所得」の確認に時間を割く

  • 11月に集めるのは主に兼用様式(基礎控除・配偶者控除等・特定親族特別控除・所得金額調整控除)と保険料控除申告書。扶養控除等申告書は提出漏れと異動の確認が中心
  • 令和8年分は扶養親族等の所得要件が62万円以下(給与収入136万円以下)に。配偶者特別控除は給与収入207万円以下、特定親族特別控除は197万円以下が目安
  • 所得要件の改正で新たに対象になる家族がいれば、扶養控除等申告書の異動申告が必要。会社から声をかけないと拾えない
  • 家族の所得は改正後の給与所得控除で計算した「所得」の見積額で書く。19〜22歳の子は特定扶養親族か特定親族かの振り分けに注意
  • 差し戻しは直す箇所まで具体的に。案内文・記載例・チャットボットを使って問い合わせを減らす

申告書のチェックは地味ですが、ここで拾えなかった誤りは、源泉徴収票と給与支払報告書を通じて翌年まで尾を引きます。今年は計算の前提が変わった年なので、ソフト任せにせず、家族の所得と区分の確認に時間を割いておきましょう。次回は、保険料控除申告書のチェックポイント(生命保険料の新旧制度、地震保険料、社会保険料、小規模企業共済)を扱います。

出典・参考
・国税庁「年末調整がよくわかるページ(令和8年分)」
・国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」(Ⅲ-2 各種控除額の確認:2-1 扶養控除等(異動)申告書、2-2 基礎控除申告書等の受理と内容の確認)
・国税庁「令和8年分 年末調整チェック表」「令和8年分各種控除について(給与所得者用)」「年末調整を受ける際の注意事項」(いずれも上記ページに掲載)

※本記事は執筆時点(2026年10月)の制度をもとに一般的な実務の流れを解説したものです。個別の判断は所轄の税務署や専門家にご確認ください。

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