退職オペレーションを部署横断で整理する

入社の手続きを部署横断で整理したシリーズの対になるのが、今回の「退職」です。一人が退職するとき、その手続きは人事だけでは終わりません。人事・労務・総務・経理が連鎖して動き、しかも退職特有の「落とし穴」がいくつもあります。月末退職か月途中退職かで保険料が変わる、住民税は退職時期で扱いが違う、アカウント停止を忘れるとセキュリティ事故になる――。今回は、退職オペレーションを発生から完了まで、部署横断で追っていきます。

目次

人事――起点をつくり、全社に伝える

退職オペレーションの起点は人事です。まず、本人からの退職意向を受領します。そして、退職日と最終出社日を確定させます。この2つは似ているようで別物です。退職日は在籍の最終日、最終出社日は実際に出社する最後の日で、有給休暇の消化があると両者はずれます。後工程のすべてがこの日付を基準に動くため、ここを早く正確に固めることが、全体の段取りを左右します。

そして人事は、確定した退職の情報を各所(労務・総務・経理・配属部門・役員)に周知します。この周知が遅れたり漏れたりすると、後工程の各部署が動き出せません。入社のときと同じく、人事が「ハブ」として情報を配る役割を担います。

労務――社会保険・雇用保険・住民税の手続き

退職後、最も期限が厳しく、論点が多いのが労務の手続きです。

社会保険の資格喪失(期限:退職日の翌日から5日以内)

健康保険・厚生年金保険は、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」を提出します。期限は、資格喪失日(退職日の翌日)から5日以内です。

ここで、退職特有の事情として押さえておきたいのが、有給休暇の消化です。残っている有給をまとめて消化すると、最終出社日が、退職日のずっと前――場合によっては1〜2か月前――に来ることがあります。そして、いったん有給消化に入ると、本人とは連絡が取りにくくなり、後から書類のやり取りや確認事項を依頼するのが難しくなります。

だからこそ、退職の挨拶の場面や、退職後の連絡手段(私用の連絡先など)の確認、回収すべきものや渡すべきものの段取りは、本人がまだ出社している最終出社日までに済ませておく必要があります。「退職日まで時間があるから」と油断していると、実際にはもう本人と会えない、という事態になりかねません。退職オペレーションは、退職日ではなく「最終出社日」を基準に逆算して動くのが、現実的な構えです。

雇用保険の資格喪失と離職票

雇用保険は、「雇用保険被保険者資格喪失届」をハローワークに提出します。あわせて、本人が失業給付を受けるために必要な「離職票」の発行手続きを行います。離職票は本人の再就職活動に直結するため、遅れないよう注意します。

住民税の異動届

住民税は、「給与所得者異動届出書」を市区町村に提出します。ここに、退職時期による重要な違いがあります。

1月1日〜4月30日に退職
残りの住民税(その年の5月分まで)を
最終給与・退職金から一括徴収するのが原則
※5月退職は残り5月分のみのため通常どおり
6月1日〜12月31日に退職
退職月までを特別徴収し、その後は
本人が納める普通徴収に切替
※本人の希望で一括徴収も可

退職日が1月1日から4月30日までの場合、残っている住民税(その年の5月分まで)を、最終給与や退職金から一括徴収するのが原則です。5月中の退職は、残りが5月分のみなので通常どおり。一方、6月1日から12月31日までの退職は、退職月までを特別徴収し、その後は本人が自分で納める普通徴収に切り替わる(または本人の希望で一括徴収)のが基本です。退職時期によって扱いが変わるため、本人への説明も含めて、慎重な確認が必要です。

給与担当――最終給与の計算という関門

労務の中でも、給与担当には退職特有の計算が集中します。社会保険料の控除、最終給与の日割り計算、住民税の処理(前述の一括徴収など)、源泉徴収票の発行、そして定期代を前渡ししている場合は、未経過分の精算。これらをまとめて、最後の給与で処理します。特に社会保険料は、次に述べる「月末問題」があるため、退職日の確認が欠かせません。

退職特有の落とし穴――社会保険料の「月末問題」と「同月得喪」

ここが、退職オペレーションで最も間違えやすいポイントです。社会保険の資格喪失日は、退職日その日ではなく「退職日の翌日」です。そして、保険料は「資格喪失日が属する月の前月分まで」かかります。この仕組みのため、月末退職か月途中退職かで、保険料が1か月分変わります。

5月31日(月末)に退職
資格喪失日 = 6月1日
5月分まで保険料がかかる
5月30日(月末の前日)に退職
資格喪失日 = 5月31日
→ 5月分はかからない
たった1日の違いで、保険料が1か月分変わる

たとえば、5月31日に退職すると資格喪失日は6月1日となり、5月分まで保険料がかかります。一方、5月30日に退職すると資格喪失日は5月31日となり、5月分の保険料はかかりません。たった1日の違いで、保険料が1か月分変わるのです。

さらに見落とされやすいのが、入社した月にそのまま退職するケース(同月得喪)です。この場合でも、社会保険料は1か月分かかります。「すぐ辞めたから保険料はかからない」と思い込むと、控除漏れにつながります。1日でも在籍すれば、その月の保険料が発生しうる、という点を押さえておく必要があります。

総務――貸与物の回収とアカウント停止

総務は、入社時に「渡した」ものを「回収する」役割です。PCや備品、入館証などの貸与物の回収。そして、退職の社内周知。さらに、忘れてはならないのが各種アカウントの停止です。メール、社内システム、クラウドサービスへのアクセス権限を、退職日に合わせて確実に停止します。

ここが抜けると、退職者が退職後も社内システムにアクセスできる状態が残り、情報漏えいやセキュリティ事故につながります。「アカウント停止漏れ」は、退職オペレーションで最も重大なリスクの一つです。あわせて、退職者宛てのメールの転送設定や、データのアーカイブ化など、業務の引き継ぎに必要な処理も、このタイミングで行います。

経理――経費精算と、控除額の変動の把握

経理は、退職者の最後の経費精算を処理します。立替経費の清算を、最終給与のタイミングに間に合わせます。そして、経理が把握しておくべきなのが、住民税の控除額が変わるタイミングです。前述のとおり、退職時には住民税が一括徴収されたり、普通徴収に切り替わったりします。これにより、会社が納める住民税の額が変動します。労務・給与担当がどう処理したかを経理が把握していないと、納付額の変化の理由が分からなくなります。ここでも、部署間の連携が処理を正しく閉じる鍵になります。

まとめ

退職オペレーションは、人事が起点をつくり、労務が社会保険・雇用保険・住民税を処理し、給与担当が最終給与を計算し、総務が貸与物回収とアカウント停止を行い、経理が経費精算と控除変動を押さえる――この連鎖で完結します。特に、社会保険料の月末問題、住民税の退職時期による違い、アカウント停止漏れは、退職特有の落とし穴です。入社が「迎え入れる」段取りなら、退職は「送り出す」段取り。どちらも、一つの事象を部署横断で見渡すことで、抜けのない対応が実現します。

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本記事は一般的な実務解説であり、個別の手続きや判断については、管轄の年金事務所・ハローワーク・市区町村、または社会保険労務士等の専門家にご確認ください。制度は改正されることがあります。

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