買われる前に問われる、数字を説明する力

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海外勢による日本企業の買収額が、わずか9カ月で前年1年分を超えた──。2026年10月にビジネスジャーナルが報じた、日本企業をめぐるM&Aの動きです。「円安で日本が安く買われている」という見方だけでは、この流れは読み違えると感じます。買い手が値段をつけているのは、会社が自分では説明しきれていなかった「伸びしろ」のほうだと思います。M&AとIPO準備の両方に管理部門として関わってきた立場から、その意味を読み解きます。

記事のポイント(2026年10月18日)
・2026年1〜9月の日本企業が関わるM&Aは3883件で、同期間として3年連続の過去最多(レコフデータ)
・海外勢による日本企業の買収は326件(21.2%増)、金額は約6.2兆円で、9カ月で2025年の年間実績を上回った
・背景は円安に加え、東証の「資本コストや株価を意識した経営」の要請と、事業承継の需要の3つ
・2025年にM&Aやグループ再編で上場廃止を前提とした案件は142件で、新規上場の66件を上回った
= 為替だけでは説明できない、構造的な買収の増加。
目次

「安く買われている」だけでは読み違える

記事によれば、2026年1〜9月の日本企業のM&Aは3883件で過去最多、海外勢による買収は326件・約6.2兆円と、9カ月で前年1年分を超えました。単純に割れば1件あたり約190億円です。大型の非公開化案件に引っ張られた平均ではありますが、海外勢が数百億円単位で日本企業に値段をつけていることがよく分かります。

ただ、円安は2022年から続いています。記事が指摘するとおり、今になって案件が積み上がっているのは、東証が2023年3月に上場企業へ「資本コストや株価を意識した経営」を求めたことで、資本効率を上げる余地が開示資料の数字から見えやすくなったことが大きいと思います。東証の調査では、事業ポートフォリオの見直しを「実施している」企業は28%にとどまり、投資家の73%はそこを課題とみています。開示は進んだものの、事業の組み替えまでは手が回っていない。そのギャップに、非公開化を前提とした買収提案が入り込んでいるという構図です。

もう一つ目を引くのは、2025年にM&Aやグループ再編で上場廃止を前提とした案件が142件と、新規上場の66件を76件上回ったことです。上場の「入口」より「出口」のほうが多い。上場していること自体の意味が問われていると感じます。

買収で最初に変わるのは管理部門

M&Aを支援する会社で管理部門を担ってきた立場から言うと、買収で最初に変わるのは管理部門です。ファンドの傘下に入れば、月次決算の早期化、事業別・製品別の採算の見える化、数年の期限を切った計画とその進み具合の報告が求められます。記事でも、ファンドの価値向上策は製品ごとの採算の洗い出しや事業の整理といった「教科書どおり」の施策であり、違いは期限を切って実行するところにあると紹介されています。その実行を数字で支えるのが管理部門です。

買収前のデューデリジェンスでも、問われるのは「数字を事業ごとに説明できるか」です。これはIPO準備で求められる予実管理やセグメント管理とほとんど同じです。記事にある「事業ポートフォリオの見直しを実施している企業は28%」という数字は、裏を返せば、多くの会社でその管理の土台がまだ十分でないことを示しているのだと思います。事業ごとの採算が見えていなければ、見直そうにも判断の材料がないからです。

買収の前後で管理部門に求められること(一般論)
・デューデリジェンス:事業別・製品別の採算、契約・労務・税務の論点を資料で説明できるか
・買収後:月次決算の早期化と、計画に対する進み具合の定期報告
・採算の見える化:どの事業・製品がどれだけ資本を使い、どれだけ稼いでいるか
・IPO準備との共通点:予実管理、セグメント管理、内部統制の整備
= 「売れる会社」と「上場できる会社」の土台はほぼ同じ。

事業承継のM&Aで価格を左右する「地味な論点」

もう一つ、実務者として気になるのは事業承継のM&Aです。帝国データバンクによると、2025年の後継者不在率は50.1%まで下がり、承継の経緯に占める「M&Aほか」は20.6%に伸びています。記事によれば、2026年1〜9月の事業承継目的のM&Aは833件と、2007年以来の多さでした。後継者問題が、M&Aという出口を通じて解消されつつあるということです。

オーナー企業の売却では、未払残業代や社会保険の加入漏れ、契約書の不備といった地味な論点が、そのまま価格の引き下げや取引の白紙化につながります。買い手から見れば、買収後に表に出てくる負債やトラブルは、あらかじめ価格から差し引いておくべきものだからです。「いつか売るかもしれない」会社ほど、管理の整備は早いほうがよいということです。

月次決算の早期化や、給与・勤怠の記録を正しく残す仕組みづくりは、M&AでもIPOでも最初に問われる土台です。手作業に頼った運用を見直すなら、クラウドの会計・給与・勤怠サービスも選択肢になります。詳しくは「給与計算・労務のクラウド化、何を基準に選ぶか」で整理しています。

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非公開化が増えるほど問われる公正さ

一方で、非公開化が増えるほど、少数株主にとって価格が公正か、従業員の雇用や取引先との関係がどうなるかは、引き続き慎重に見るべき論点です。記事でも、東証の施策が企業をMBOへ追い込んでいるという指摘や、大株主の持ち分整理にともなって系列を前提にした取引慣行が見直しを迫られる可能性に触れています。買収そのものの是非ではなく、その手続きと買収後の中身が問われるということだと思います。

まとめ

  • 2026年1〜9月の海外勢による日本企業の買収は326件・約6.2兆円で、9カ月で前年1年分を超えた
  • 2025年の上場廃止を前提とした案件は142件で、新規上場の66件を上回った
  • 買収で最初に変わるのは管理部門。事業ごとの採算を数字で説明できるかが問われる
  • 事業承継のM&Aでは、未払残業代や社会保険、契約書の不備が価格を左右する
  • 非公開化が増えるほど、少数株主にとっての価格の公正さや雇用への配慮が論点になる

買う側か買われる側か、上場か非上場かを問わず、自社の事業がどれだけの資本を使い、どれだけのリターンを生んでいるのかを自分たちの言葉で説明できるか。それが問われているのだと感じます。

【出典・参考】
・ビジネスジャーナル「外資の日本企業買収、9カ月で前年超え…なぜ「地味な優良企業」が狙われる?」(2026年10月18日)

※本記事は公表情報をもとに一般的な考察を目的として作成したものであり、特定の企業の評価や投資判断を推奨するものではありません。数値は出典記事に基づく参考値です。

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