創業者を含む旧経営陣9人に、会社への損害賠償責任がある──。2026年10月に時事通信などが報じた、ニデックの役員責任調査委員会による結論です。不正の事実を明らかにする段階から、誰がどこまで責任を負うのかを決める段階に入ったという意味で、大きな節目だと感じます。コーポレート実務とIPO準備に携わってきた立場から、その意味を読み解きます。
・創業者の永守重信氏、前社長の岸田光哉氏らに損害賠償責任が認められるとされた(報道では計9人)
・9人のうち8人は取締役経験者として会社法423条1項に基づく責任、1人は2022年5月から2026年3月までCFOを務めた人物で別の根拠による責任
・損害の範囲は各人の関与の度合いに応じて判断するとされ、請求額は示されていない
・会社は損害賠償請求などの法的措置を速やかに講じる方針。報告書は一部を非開示とし、20日をめどに公表予定
= 不正の「解明」から、役員の「責任追及」の段階へ。
「事実の解明」から「責任の追及」へ
ニデックの不正会計問題では、まず第三者委員会が2026年3月に報告書を公表し、多数の会計不正があったことを認定しました。その直後に設置されたのが、今回結論を出した役員責任調査委員会です。外部の弁護士らで構成され、2020年度から2025年度第1四半期までに在籍した取締役・監査役・執行役員について、会社に対する法的責任の有無を調べてきました。
第三者委員会が「何が起きたのか」を明らかにする役割だとすれば、役員責任調査委員会は「誰が、どこまで責任を負うのか」を判断する役割です。不祥事を起こした会社の多くはこの二段階を踏みます。会社が自ら役員を訴えるかどうかを決めるには、社内の利害から距離を置いた第三者の判断が必要になるからです。
報道によれば、9人のうち8人は取締役経験者として会社法423条1項に基づく責任、残る1人は2022年5月から2026年3月までCFOを務めた人物で、別の根拠による責任とされています。損害の範囲は各人の関与の度合いに応じて判断するとのことで、請求額はまだ示されていません。9月には個人株主が永守氏ら2人に約287億円の賠償を求める株主代表訴訟を起こしており、会社自らが請求に動くかどうかが問われていました。
423条の責任は「指示したか」だけでは決まらない
会社法423条1項は、取締役などの役員が任務を怠ったとき、それによって会社に生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。ここでいう任務には、自ら不正をしないことだけでなく、他の取締役の業務執行を監視する義務と、不正を防ぐ内部統制の仕組みを整える義務が含まれます。
第三者委員会は、永守氏が不正を指示・主導した事実は見つからなかったとしています。それでも今回、調査委が永守氏への権限の集中を構造的な問題として挙げたのは、まさにこの「仕組みを整え、止める」側の責任を問うたものだと思います。強いリーダーシップは成長の原動力になりますが、その判断に誰も異を唱えられない状態は、組織としての歯止めを失った状態でもあります。
・任務には、自らの業務執行だけでなく、他の取締役への監視義務が含まれる
・不正を防ぎ、早く見つけるための内部統制の仕組みを整える義務もある
・不正を「指示していない」ことは、それだけで責任がないことを意味しない
= 問われるのは「やったか」と同時に「止められたか」。
IPO準備でも、オーナー色の強い会社ほど、取締役会や監査役が創業者に対して実際に異を唱えられるかを審査で確かめられました。社外役員の人数や会議体の数といった形式だけではなく、取締役会で反対意見が出た記録があるか、重要な決裁が特定の人に集中していないかといった運用まで見られます。上場前に整えた牽制の仕組みが、上場後の成長の中で形だけのものになっていないか。今回の結論は、すべての上場企業への問いでもあると感じます。
会社に「請求しない」という選択肢はあるのか
もう一つ、実務者として気になるのは、会社には請求を見送るという選択肢が事実上ないという点です。株主から提訴の請求を受けて会社が60日以内に訴えなければ、株主は自ら代表訴訟を起こせます。合理的な理由なく請求を見送れば、今度はその判断をした現経営陣の責任が問われかねません。
創業者への請求は心情的に重い決断でしょう。それでも、第三者の調査に基づいて責任の有無を判断し、その結論に沿って手続きを進めることが、株主や取引先に対して会社が公正であることを示す唯一の方法です。監査法人から意見不表明を受け、上場維持に向けて体制の立て直しを進めている局面だからこそ、手続きとしての公正さを示すことが、上場維持と信頼回復の前提になるのだと感じます。
責任追及は再発防止の「始まり」
一方で、役員個人から回収できる金額には限りがあり、失われた信用や株主価値がそれで埋め合わされるわけではありません。損害の範囲が関与の度合いに応じて判断されるとしても、不正会計によって会社が負った損失の規模を考えれば、賠償で取り戻せるのはごく一部でしょう。
だからこそ、責任追及は再発防止の終わりではなく始まりです。誰が責任を負うのかをはっきりさせたうえで、権限の集中をどう改め、異を唱えられる仕組みをどう作り直すのか。役員の選び方、取締役会の運営、内部通報や内部監査の位置づけといった具体策まで示されて、はじめて信頼回復の道筋が見えてくると思います。
まとめ
- ニデックの役員責任調査委員会は、創業者を含む旧経営陣9人に損害賠償責任があると結論づけた
- 8人は会社法423条1項、元CFOの1人は別の根拠による責任。損害の範囲は関与の度合いに応じて判断される
- 423条の責任は不正を指示したかだけでなく、監視し、止める仕組みを整えたかでも問われる
- 株主代表訴訟の制度がある以上、会社が合理的な理由なく請求を見送ることは難しい
- 賠償で取り戻せるものは限られ、権限集中を改める具体策こそが信頼回復の鍵になる
20日をめどに公表される報告書で、権限の集中をどう改めるのかという具体策まで示されるのか。「止める仕組み」の作り直しに注目したいと思います。
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・時事ドットコム「永守重信氏らに損害賠償請求へ 会計・品質不正で法令違反―ニデック」(2026年10月16日)
・EE Times Japan「ニデック会計不正、永守氏や歴代社長ら9人に『損害賠償責任』:役員責任調査委員会が結論」(2026年10月16日)
・時事ドットコム「永守氏らに287億円賠償請求 ニデック個人株主が代表訴訟」(2026年9月10日)
※本記事は公表情報をもとに一般的な考察を目的として作成したものであり、特定の企業の評価や投資判断を推奨するものではありません。数値は出典記事に基づく参考値です。

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