部下の横領が発覚したとき、上司はどんな言葉をかけるべきか──。2026年10月にダイヤモンド・オンラインが報じた、社労士による職場の悩みへの助言です。責任をきちんと伝えたうえで「相談してほしかった」という本音を添える、という考え方には共感します。ただ、管理部門の立場から付け加えるとすれば、その一言を「いつ」かけるか、そして言葉だけで会社を守れるのかという点も同じくらい大切だと感じます。IPO準備で内部統制を整えてきた立場から、その意味を読み解きます。
・大切なのは、本人に責任を受け止めてもらうこと、会社の確認に協力してもらうこと、上司としての本音を伝えること
・「相談してほしかった」「信用していただけにショックだった」は、責任追及ではなく上司自身の本音
= 悪いことは悪いと伝えながら、本音を添えて反省を促す。
最初にすべきは、声かけではなく事実の確認
実務では、横領の疑いが出た段階でまず行うのは、本人への声かけではなく事実の確認です。帳簿や証憑、システムのログを押さえ、金額と期間、手口を特定する。本人へのヒアリングは裏付けをそろえてから、人事や管理部門が同席して行い、記録に残します。
上司が先に感情のまま問い詰めてしまうと、証拠を消される、説明が食い違うといったことが起こりかねません。信頼していた部下であればあるほど、「本人に直接聞きたい」という気持ちになるのは自然です。ただ、その一度の会話が、後の調査や処分の判断を難しくすることがあります。
もう一つ注意したいのは、その場で退職届や返済の念書を書かせることです。早く決着をつけたい気持ちは分かりますが、後から「強要された」と争われる余地を残してしまいます。業務上横領は10年以下の拘禁刑にあたる重い犯罪です。懲戒処分、損害の回収、刑事告訴をどうするかは、上司個人ではなく、就業規則と証拠に基づいて会社として判断すべきことです。
処分を決める際も、手続きが問われます。就業規則に懲戒事由として定められているか、本人に弁明の機会を与えたか、過去の同種の事案と比べて処分の重さが釣り合っているか。横領という明らかな非違行為であっても、こうした手順を飛ばせば、後から処分の有効性を争われることがあります。事実が固まっていれば処分の判断は難しくありません。だからこそ、最初の証拠の保全が要になるのです。
②本人へのヒアリング:裏付けをそろえてから、人事・管理部門が同席し、記録を残す
③処分の判断:就業規則の懲戒事由に照らし、弁明の機会を与えたうえで決める
④損害の回収と刑事告訴:会社として方針を決める(その場の念書で済ませない)
⑤再発防止:手口から統制の穴を特定し、仕組みを直す
= 上司の一言は、こうした手続きが進んだあとにかけてこそ届く。
「動機」に向き合うのは上司、「機会」をなくすのは会社
不正は「動機」「機会」「正当化」の三つがそろったときに起きるとされます。いわゆる不正のトライアングルです。お金に困っているという動機、一人で処理できてしまう機会、そして「少し借りるだけ」「これだけ働いているのだから」という正当化。記事の「相談してほしかった」という言葉は、このうち動機に上司が向き合う話だと言えます。
一方で、機会をなくすのは会社の仕事です。お金の出し入れを一人で完結させない職務分掌、担当者と承認者を分けること、定期的な担当替えや連続休暇の取得。担当者が長く休めば、その間に別の人が業務を見ることになり、隠れていた処理が表に出やすくなります。地味ですが、こうした仕組みがあれば、困った社員が一線を越える前に踏みとどまれます。
横領が起きやすいのは、小口現金、経費精算、振込データの作成と承認、売上の入金消込など、お金と記録の両方を一人が触れる業務です。特に管理部門の人数が少ない会社では、「信頼できるベテランに任せきり」になりがちです。その人を疑うためではなく、その人を守るためにこそ、別の人の目が入る仕組みが必要だと感じます。
IPO準備でも、この点は繰り返し確認されました。上場審査では、過去に不正があった会社は、処分の重さ以上に、再発防止策が実際に運用されているかを確かめられます。規程を直したかではなく、直した仕組みが日々回っている記録があるか。そこが問われるのです。
周囲にどう伝えるかも、会社のルールに
もう一つ、実務者として気になるのは、周囲への説明です。誰がどこまで知るのか、同じ部署の社員にどう伝えるのか。曖昧にすれば「やっても大した処分はない」という空気が残り、逆に明かしすぎれば名誉やプライバシーの問題になります。
この厳正さと配慮のバランスは、上司個人の言葉選びに任せるのではなく、会社のルールとして決めておくべきだと感じます。調査に関わる人の範囲、社内への公表の基準、取引先や金融機関への説明の要否。事案が起きてから考えるのでは遅く、平時に決めておくからこそ、感情に流されない対応ができます。
まとめ
- 横領した部下に責任を伝えたうえで本音を添える、という記事の考え方には共感できる。ただ、その一言を「いつ」かけるかも大切
- 疑いが出たら、まず証拠の保全と事実の確認。感情のまま問い詰めたり、その場で念書を書かせたりしない
- 処分・損害回収・刑事告訴は、就業規則と証拠に基づいて会社として判断する
- 動機に向き合うのは上司、機会をなくすのは会社。職務分掌、承認者の分離、担当替えや連続休暇が「機会」を減らす
- 周囲への説明の範囲は、平時に会社のルールとして決めておく
上司の言葉は本人が立ち直るきっかけにはなっても、会社を守るのは仕組みです。「信用していた」で終わらせず、信用だけに頼らなくても回る仕組みを用意できているか。そこが問われているのだと思います。
統制を「運用」まで落とし込むには、承認や記録を人の注意だけに頼らず残せる仕組みも必要です。ワークフローや文書管理などのシステム選びでは、要件を伝えると自社に合う製品や開発会社を紹介してくれるサービスを使う方法もあります。
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【出典・参考】
・ダイヤモンド・オンライン「「横領した部下」に、上司がかけるべき一言・ベスト1」(2026年10月4日)
※本記事は公表情報をもとに一般的な考察を目的として作成したものであり、特定の企業の評価や投資判断を推奨するものではありません。数値は出典記事に基づく参考値です。

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