IPO準備とは、突き詰めれば「上場企業として通用する管理部門を作る」ことにほかなりません。事業がどれだけ好調でも、それを支える管理部門が整っていなければ、上場審査は通りません。この連載では、IPO準備における管理部門の構築を、機能ごとに全5回で解説します。経理、人事・労務、総務、内部監査、そして最後にそれらを担う人材の確保という視点で、順に見ていきます。
第1回のテーマは、管理部門の中核である経理体制です。上場準備において、経理は最も早く、そして最も深く、上場水準への引き上げを求められる部門です。コーポレート実務の視点で、何を整えるべきかを整理します。
なぜ経理体制が管理部門構築の起点なのか
上場企業に求められるのは、正確な財務諸表を、迅速に作成し、投資家に開示できる体制です。その土台を担うのが経理部門です。監査法人の監査を受け、内部統制を整え、決算を期限内に締める。これらがすべて、経理体制の上に成り立っています。だからこそ、管理部門の構築は、経理から着手するのが定石です。
経理体制の構築で押さえるべき論点は、大きく4つあります。会計システム、決算の早期化、監査対応、そして予算策定です。順に見ていきます。
① 会計システム──SOC2対応とリプレイス
まず、会計システムです。上場準備では、多くの企業が会計システムの入れ替え(リプレイス)を迫られます。非上場時代に使っていた簡易な会計ソフトでは、上場企業に求められる内部統制やIT統制に対応しきれないことが多いためです。
ここで重要になるのが、クラウド会計システムを利用する場合の「SOC2対応」です。SOC2報告書とは、クラウドサービス事業者が、セキュリティや可用性などに関する内部統制を適切に整備・運用していることを、第三者(監査法人)が保証した報告書です。
上場準備では、その委託先(クラウド事業者)の内部統制が信頼できるかを評価する必要がある(=委託先統制の評価)。
そこで、事業者のSOC2報告書を入手し、委託先のIT統制が適切かを確認する。これが監査・内部統制対応上、重要になる。
つまり、会計システムを選ぶ際には、機能や使い勝手だけでなく、そのクラウド事業者がSOC2報告書を取得しているか(委託先統制を評価できるか)という観点が、上場準備では欠かせません。リプレイスのタイミングとしては、監査法人のショートレビューを受ける直前々期以前(N-3期)に検討を始め、直前々期(N-2期)で実際に入れ替えるケースが一般的です。システムの入れ替えは業務への影響が大きいため、早めの計画が求められます。
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② 決算の早期化──「5営業日での締め」
次に、決算の早期化です。上場企業は、決算を迅速に開示する義務があります。そのため、経理部門には、月次決算を早期に、かつ安定して締められる体制が求められます。一つの目安が、月初から数営業日、たとえば「5営業日での締め」といった水準です。
ここで重要なのは、「たまたま早く締められた月がある」ことではなく、「毎月、安定して早期に締められる」ことです。審査では、月次決算を1年を通して安定的に早期化できているかが問われます。単月の頑張りではなく、恒常的な仕組みとして機能しているかどうかが見られるのです。
そして、決算の早期化は、担当者個人の頑張りだけでは実現できません。締め日、作業担当、レビュー担当、提出期限を明確に決め、業務を標準化し、属人化を防ぐ。そうした仕組みづくりが、安定した早期化を支えます。この経理体制の中核をなす決算早期化については、シリーズの別記事でも詳しく扱っています。あわせてご参照ください。
③ 監査対応──第三者が検証できる状態を作る
上場準備に入ると、監査法人による会計監査を受けることになります。この監査対応も、経理体制の重要な役割です。
監査対応で求められるのは、担当者本人にしか分からない資料ではなく、第三者が見ても理解でき、検証できる状態です。証憑がきちんと保管され、会計処理の根拠が明確で、数字の裏付けを誰でもたどれる。こうした「透明で検証可能な経理」が、監査を受ける前提になります。
監査法人とは、早期に契約を結び、定期的なコミュニケーションを取りながら、指摘事項に迅速に対応していくことになります。監査対応は、一度きりのイベントではなく、継続的な関係のなかで進む実務です。
④ 予算策定──経理が担う「経営企画」的役割
そして、経理体制が担うもう一つの重要な役割が、予算策定です。会社によっては、これは経営企画的な機能として位置づけられます。
上場企業は、業績予想を投資家に公表し、その予算と実績を管理していく必要があります。事業計画に基づいて予算を策定し、毎月の実績との差異を分析し、その要因を説明できる状態を整える。この予実管理の実務において、経理は数値の集計・分析と会計上の正確性を担う、中心的な役割を果たします。単に過去の数字を記録するだけでなく、未来の数字を計画し、その達成を管理する。ここに、上場準備における経理の、経営企画的な側面が表れます。
この予算策定・予実管理は、それ自体が非常に奥の深いテーマです。なぜ予実管理が上場準備で最大のハードルとされるのか、予算をどう作るのか、といった論点は、シリーズの別記事で詳しく掘り下げています。経理体制を語るうえで避けて通れない領域として、あわせてご覧いただくことをおすすめします。
まとめ
- 経理体制は管理部門構築の起点。正確な財務諸表を迅速に開示する体制の土台になる
- 会計システムはリプレイスが必要になることが多い。クラウド会計なら事業者のSOC2報告書を入手し、委託先統制を評価する。検討はN-3期、入れ替えはN-2期が目安
- 決算は「5営業日での締め」のような早期化が求められる。単月でなく、毎月安定して締められる仕組みが問われる
- 監査対応では、第三者が検証できる透明な経理が前提。予算策定という経営企画的役割も経理が担う
経理体制の構築は、単なる記帳の仕組みづくりではありません。会計システム、決算の早期化、監査対応、予算策定。これらを上場水準で整え、安定して運用することが、管理部門全体の信頼性の土台になります。そして、これほど高度な役割を担うには、それに見合った人材が必要です。人材の確保という論点は、この連載の最終回であらためて扱います。次回は、管理部門構築の第2回として、人事・採用・労務の領域を取り上げます。
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※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の上場準備や経理体制の構築、システム選定を保証するものではありません。具体的な対応にあたっては、監査法人・主幹事証券会社等の専門家にご相談ください。

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