年末調整の全体像とスケジュール──10月から翌1月までを部署横断で整理

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年末調整の全体像とスケジュール──10月から翌1月までを部署横断で整理

年末調整は「12月の給与計算でやる作業」と思われがちですが、実際は10月の準備から翌1月末の提出まで、人事・労務、経理、従業員全員が関わる約4か月のプロジェクトです。このシリーズでは年末調整から6月の住民税切替までを全8回で整理します。第1回は全体像とスケジュールです。結論を先に言えば、令和8年分は基礎控除の引上げ等で計算の前提が変わり、令和9年1月からは源泉徴収票の提出方法も変わります。例年どおりの段取りに、この2点を織り込んでおくことが今年のポイントです。

目次

年末調整は「12月の作業」ではなく、4か月のプロジェクト

年末調整は、毎月源泉徴収してきた所得税の合計と、1年間の給与総額に対する本来の年税額とのズレを精算する手続きです。ズレは、税額表が給与一定を前提にしていることや、生命保険料などの控除が年末調整で初めて反映されることから生じます。

申告書の回収、内容確認、年税額の計算、給与での精算と納付、1月の源泉徴収票の交付と給与支払報告書の提出。どこか1か所が遅れると後ろの工程がすべて詰まるため、全体を月単位で見渡しておくことが大切です。

年末調整のスケジュール(令和8年分の場合)
10月|準備 国税庁「年末調整のしかた」で今年の改正点を確認。対象者リストの作成、年調ソフト・給与システムの設定、従業員向け案内文の準備
11月|配付・回収 各種申告書の配付と回収、控除証明書の添付確認、中途入社者の前職の源泉徴収票の回収、差し戻し対応
12月|計算・精算 年税額の計算、その年最後の給与(または賞与)での過不足精算、所得税徴収高計算書への記載と納付準備
翌1月|交付・提出 源泉徴収票の交付、給与支払報告書・法定調書の提出(いずれも1月31日まで)、納期の特例分の納付(1月20日)、必要に応じて年末調整のやり直し

令和8年分は「基礎控除の引上げ」で計算の前提が変わる

今年まず押さえるべきは、令和8年度税制改正による基礎控除の引上げ等です。改正は原則として令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税に適用されます。国税庁の「令和8年分 年末調整のしかた」によれば、主な変更点は次のとおりです。

令和8年分の主な改正点(年末調整に関係するもの)
・基礎控除の引上げ 合計所得金額489万円以下は104万円(改正前は所得に応じて95万〜68万円)、489万円超655万円以下は67万円、655万円超2,350万円以下は62万円(令和8・9年分)
・給与所得控除の最低保障額 65万円→74万円
・扶養親族等の所得要件 扶養親族・同一生計配偶者は合計所得金額58万円以下→62万円以下(給与収入のみなら136万円以下)。特定親族は62万円超123万円以下、配偶者特別控除の対象は62万円超133万円以下、勤労学生は89万円以下
・生命保険料控除の特例 23歳未満の扶養親族がいる場合、令和8・9年分の新生命保険料に係る一般生命保険料控除の上限が6万円に(合計の上限12万円は変わらず)
令和8年11月までの毎月の源泉徴収は改正前のまま。12月の年末調整で、改正後の基礎控除等による年税額と精算します。

実務上の影響は大きく2つあります。1つは、毎月の源泉徴収は改正前の税額表のままなので、改正後の控除は12月の年末調整でまとめて反映され、精算額が例年と変わる可能性がある点です。還付は会社が納める源泉所得税から差し引いて行うため、経理の納付額にも影響します。

もう1つは、所得要件の引上げで新たに扶養親族等の要件を満たす家族が出てくることです。国税庁は、その親族について控除を受けるには扶養控除等(異動)申告書等の提出が必要と案内しています。「去年は対象外だった家族も、今年は対象になるかもしれない」という一文を案内に入れておくと漏れを防げます。

10〜11月:対象者を確定し、「誰に何を出してもらうか」を決める

最初にやるのは対象者の確定です。原則は扶養控除等(異動)申告書を出している人全員ですが、主たる給与の収入が2,000万円を超える人、乙欄適用者、年の途中で退職して対象外となる人などは除かれます。年の途中で入社した人は対象なので、前職の源泉徴収票を早めに回収します。

そのうえで「何を、いつまでに、どの形式で出してもらうか」を一枚にまとめて案内します。地味ですが、これで11月の差し戻しの量が大きく変わります。

令和8年分(今年の精算に使う)
・扶養控除等(異動)申告書(年初に提出済みのものの異動確認)
・基礎控除申告書/配偶者控除等申告書/特定親族特別控除申告書/所得金額調整控除申告書
・保険料控除申告書(控除証明書の添付)
・住宅借入金等特別控除申告書(2年目以降の人)
・中途入社者の前職の源泉徴収票
令和9年分(来年の毎月の源泉徴収に使う)
・令和9年分 扶養控除等(異動)申告書
提出期限は、その年最初の給与の支払を受ける日の前日まで。年末調整の書類と一緒に回収しておくのが効率的です。住民税に関する事項(16歳未満の扶養親族など)の欄もあわせて確認します

電子的に回収しても、「誰が未提出か」「誰の内容に疑義があるか」を追いかける仕事は残ります。回収期限は、12月の給与計算の締めから逆算し、差し戻しに1〜2週間を見込んだ日付に置くのが現実的です。

12月:計算と精算──経理が知っておくべきこと

年末調整は、その年最後に給与を支払う時に行います。通常は12月の給与ですが、同じ月に賞与を先に支払う場合は、その賞与の支払時に行うこともできます。

申告書の確認
控除額を確定
→
年税額の計算
年調年税額
→
過不足の精算
還付 or 徴収
→
納付
徴収高計算書

経理として押さえておきたいのは、精算のお金の流れです。過納額は、年末調整をした月分として会社が納める源泉所得税から差し引いて本人に還付し、還付しきれなければ翌月以降の納付額から順次差し引きます。不足額は年末調整をする月の給与から徴収し、手取りが大きく減る人は、税務署の承認を受けて翌年1月・2月に繰り延べることもできます。

精算額は所得税徴収高計算書(納付書)の「年末調整による超過税額/不足税額」欄に記載し、納付額がゼロでも計算書は提出します。納付期限は原則として翌月10日、納期の特例を受けている会社は7〜12月分を翌年1月20日までにまとめて納めます。今年は精算額が例年と変わる可能性があるため、12月の給与データが固まった段階で、精算額の合計を経理に早めに共有しておくと安心です。

1月:交付・提出の締切が集中する──令和9年からの変更点

年が明けると、締切が一気にやってきます。源泉徴収票は、税務署への提出の有無にかかわらず、すべての受給者に1月31日までに交付します(年の途中で退職した人には退職の日以後1か月以内)。給与支払報告書は、1月1日現在の住所地の市区町村へ1月31日までに提出します。令和9年の1月31日は日曜日のため、税務署・市区町村への提出期限は、休日の翌日を期限とみなす規定(国税通則法10条2項、地方税法20条の5第2項)により2月1日(月)になります。ただ、1日の余裕は差し戻し1件で消えるので、社内の締切は1月中旬に置くのが無難です。

令和9年1月から変わること
・源泉徴収票のみなし提出の特例 令和8年分以後の給与支払報告書を市区町村に提出すれば、税務署に源泉徴収票を提出したものとみなされます。税務署提出用の源泉徴収票の作成・提出は不要に
・法定調書合計表 給与支払報告書を出していれば、源泉徴収票分のための合計表の提出も不要。ただし報酬・料金等の支払調書を税務署に出す場合は、その調書について記載した合計表が必要
・従業員への交付は従来どおり 源泉徴収票は引き続き全員に交付が必要
・防衛特別所得税の創設 令和9年1月以後、所得税の1%相当を併せて徴収。復興特別所得税は2.1%→1.1%となり合計税率は変わらないため、源泉徴収税額の計算方法は変わりません。給与には「令和9年分 源泉徴収税額表」を使用
eLTAXで源泉徴収票と支払報告書を同時に作成・提出できた「一元化機能」は令和8年9月で終了しています。提出の段取りは早めに見直しを。

みなし提出の特例は事務負担を軽くする改正ですが、裏を返せば、給与支払報告書の内容がそのまま税務署にも連携されるということです。国税庁も、マイナンバー、氏名(カナを含む)、住所、生年月日などの記載誤りに注意するよう呼びかけています。なお、eLTAXで提出した給与支払報告書はマイナポータル連携の対象となり、従業員の確定申告にも使えます(書面・光ディスクでの提出は対象外)。

扶養親族の異動や保険料控除の申告漏れによる年末調整のやり直しも、翌年1月末日まで会社でできます。1月は「提出」と「訂正」が重なる月だと考えて人員を手当てしておきます。

部署横断で回すための役割分担

年末調整がバタつく原因は、作業量より「誰がどこまでやるか」が曖昧なことにある場合が少なくありません。役割を最初に言葉にしておきます。

人事・労務
対象者の確定、案内と申告書の配付・回収、内容確認と差し戻し、年税額の計算、源泉徴収票の交付、給与支払報告書の提出
経理
精算額の把握と資金の準備、徴収高計算書の作成と納付(翌月10日/特例は1月20日)、預り金の残高確認、支払調書・合計表の作成
従業員
申告書の記入と控除証明書の提出、家族の所得見込みの確認、年末調整後の異動の連絡、年末調整の対象外なら自分で確定申告

見落としやすいのが経理の関わりです。精算額は源泉所得税の納付額を直接動かし、報酬の支払調書や合計表は経理の支払データから作ります。11月のうちに経理と日程をすり合わせておくだけで、1月の混乱はかなり減らせます。給与計算や年調の電子回収をクラウドで行う場合の選び方は、「給与計算・労務のクラウド化、何を基準に選ぶか」でも整理しています。

申告書の回収から源泉徴収票の作成までを一つのシステムでつなぐと、毎年の作業はかなり軽くなります。

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まとめ──今年は「前提の変化」を最初に織り込む

  • 年末調整は10月の準備から翌1月末の交付・提出までの約4か月のプロジェクト。人事・労務、経理、従業員の全員が関わる
  • 令和8年分は基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額74万円、扶養親族等の所得要件62万円への引上げなどが12月の年末調整で一度に反映される。精算額が例年と変わる可能性がある
  • 所得要件の引上げで新たに扶養の対象になる家族がいれば、扶養控除等(異動)申告書の提出が必要。案内文で必ず触れる
  • 精算は会社が納める源泉所得税と直結する。徴収高計算書の記載、納付期限(翌月10日/特例は1月20日)を経理と共有する
  • 令和9年1月からは源泉徴収票のみなし提出の特例が始まる。給与支払報告書の正確さがこれまで以上に重要になる

年末調整は毎年のことなので、去年の段取りを繰り返したくなります。ただ、今年は控除額も提出方法も変わる年です。10月のうちに案内文、社内の締切、経理との分担を見直しておきましょう。次回は、年末調整の申告書の回収とチェックの実務を扱います。

出典・参考
・国税庁「年末調整がよくわかるページ(令和8年分)」
・国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」(Ⅰ 昨年と比べて変わった点、Ⅱ 年末調整とは、Ⅲ 年末調整のしかた、Ⅳ 令和9年分の給与の源泉徴収事務)
・国税庁「源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ」
・国税庁 タックスアンサー「No.7411 「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等」
・国税庁 タックスアンサー「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」
・e-Gov法令検索「国税通則法」第10条第2項、「地方税法」第20条の5第2項

※本記事は執筆時点(2026年10月)の制度をもとに一般的な実務の流れを解説したものです。個別の判断は所轄の税務署・市区町村や専門家にご確認ください。

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