保険料控除申告書は、年末調整の申告書の中でも差し戻しが多い書類です。保険の区分の取り違え、証明書の添付漏れ、控除額の計算違いと、間違えるポイントがある程度決まっているからです。シリーズ第3回は、保険料控除申告書で申告される生命保険料・地震保険料・社会保険料・小規模企業共済等掛金のチェックを扱います。結論を先に言えば、令和8年分は「年齢23歳未満の扶養親族がいる人」の一般生命保険料控除の計算方法が変わったため、昨年と同じ感覚で控除額を確かめると誤りを見落とします。あわせて、証明書の確認と「本人が今年支払った分か」の確認が、例年どおりチェックの中心です。
保険料控除申告書で申告される4つの控除
保険料控除申告書は、生命保険料控除・地震保険料控除・社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除の4つを1枚で申告する書類です。会社は、配付した用紙を年末調整を行う時までに回収し、記載された内容に基づいて控除を行います。共通するのは、所得者本人が、その年中に支払ったものが対象になるという点です。まずは控除ごとに、何を確かめるのかを整理しておきます。
社会保険料と小規模企業共済等掛金は全額が控除されるので、確認の中心は「証明書があるか」「今年支払った分か」です。一方、生命保険料と地震保険料は上限のある計算になるため、区分と計算の確認に時間がかかります。チェックの手間は生命保険料に偏ると考えておくとよいでしょう。
令和8年分の改正──23歳未満の扶養親族がいる人の一般生命保険料控除
令和8年分と9年分は、年齢23歳未満の扶養親族を有する人について、新生命保険料に係る一般生命保険料控除の計算方法が変わりました。国税庁の「令和8年分 年末調整のしかた」でも、昨年の年末調整から一般の生命保険料の控除額の計算方法に変更が生じている点に注意するよう、保険料控除申告書の受理の冒頭で呼びかけています。
・2万円以下:全額
・2万円超4万円以下:×1/2+1万円
・4万円超8万円以下:×1/4+2万円
・8万円超:一律4万円
新旧両方を申告する場合の上限も4万円
・3万円以下:全額
・3万円超6万円以下:×1/2+1.5万円
・6万円超12万円以下:×1/4+3万円
・12万円超:一律6万円
新旧両方を申告する場合の上限も6万円
変わったのは一般の生命保険料の部分だけです。介護医療保険料と個人年金保険料の計算は従来どおりで、生命保険料控除全体の上限も12万円のままです。したがって、一般の生命保険料で6万円の控除を受けても、3区分の合計は12万円が限度になります。また、旧生命保険料だけを支払っている人の計算(計算式Ⅲ、上限5万円)は変わりません。新旧の両方を支払っていて23歳未満の扶養親族がいる場合は、新旧合算の上限が6万円になるため、旧制度だけで計算するより合算のほうが大きくなる点に注意が必要です。
もう一つの注意点は、この特例は夫婦の両方が使えることです。国税庁は、同一世帯の夫婦の間に23歳未満の扶養親族である子が1人いるような場合、夫婦の両方が特例の適用を受けられるとしています。扶養控除は夫婦のどちらか一方でしか受けられないため、「子は配偶者の扶養に入っているから自分は関係ない」と思い込んでいる従業員もいるはずです。案内の段階で一言添えておくと、適用漏れを防げます。
生命保険料控除は「区分」と「証明書」で間違える
改正点以外にも、生命保険料控除には例年決まった間違いがあります。平成24年1月1日以後に締結した契約は新制度(新生命保険料・介護医療保険料・新個人年金保険料)、平成23年12月31日以前の契約は旧制度(旧生命保険料・旧個人年金保険料)で、支払った保険料を他の区分に振り替えることはできません。保険会社の控除証明書には区分が書かれているので、申告書の記載と証明書を突き合わせるのが基本です。
・支払者 本人自身が支払ったものか(配偶者名義の契約で配偶者が払っているものは対象外)
・区分 新旧の別、一般・介護医療・個人年金の別が証明書と一致しているか。個人年金保険の傷害特約・疾病特約の部分を個人年金保険料に含めていないか
・金額 剰余金・割戻金を差し引いた額か。今年中に支払った(支払う)分だけか
・証明書 旧生命保険料は1契約の年間保険料が9,000円を超えるもの、それ以外の保険料は金額にかかわらず全て、証明書の添付または提示が必要
証明書の交付を請求中で手元にない場合は、翌年1月末日までに提出・提示することを条件に、控除して年末調整を行うことができます。
年末調整は12月の支払が終わる前に行うため、証明書の金額は年末までの見込みを含めて考えることになります。国税庁は、月払契約の証明書は「本年中に支払った金額」に代えて、毎月の払込保険料の金額と1月から9月までの払込状況がわかる記載でよいとしています。証明書のどの金額を申告書に書けばよいかを案内文で示しておくと、計算の食い違いが減ります。なお、勤務先の団体特約で給与から天引きしている保険料は、会社側で金額や受取人を確認すれば証明書は不要です。この場合は、確認した旨を申告書などに残しておきます。
地震保険料控除は「旧長期損害保険料」の扱いに注意
地震保険料控除の対象は、本人や生計を一にする親族が所有し常時居住する家屋、生活に通常必要な家財を対象とする損害保険契約のうち、地震等損害部分の保険料です。火災保険料そのものは対象外なので、火災保険と地震保険がセットになった証明書では、地震保険料の金額だけを書いているかを確かめます。控除額は支払った地震保険料の全額で、上限は5万円です。
判断に迷いやすいのが、平成18年12月31日までに締結した満期返戻金のある10年以上の長期損害保険契約の保険料(旧長期損害保険料)です。旧長期損害保険料だけなら、1万円以下は全額、1万円超2万円以下は×1/2+5千円、2万円超は一律1万5千円で、地震保険料と両方ある場合は合計で最高5万円になります。1つの契約がどちらにも当たる場合は、いずれか一方の区分にのみ該当するものとして計算します。証明書の添付は金額にかかわらず必要です。
社会保険料と小規模企業共済等掛金は「今年支払った分」か
社会保険料控除で申告書に書くのは、国民年金や国民健康保険など本人が直接支払った分です。給与から差し引いた健康保険・厚生年金保険・雇用保険の保険料は、会社が集計します。中途入社の人は、前の勤務先の源泉徴収票に記載された社会保険料等も含めて集計する点を忘れないようにします。本人が支払った家族の国民年金保険料(生計を一にする配偶者や子の分)も、本人の控除の対象です。
・実際に支払ったか 納付期日が来ていても未納のものは含めない
・前納保険料 原則は各年に対応する分だけを控除。前納期間が1年以内のものや法令に基づく前納は、全額を申告すれば支払った年に全額控除してよい。2年前納の国民年金保険料を年ごとに控除する場合は、年分ごとの控除証明書を添付
・小規模企業共済・iDeCo 本人が直接支払った分は金額にかかわらず証明書が必要。給与から差し引いている分(企業型DCのマッチング拠出など)は会社で集計し、証明書は不要
申告書を電子データで受け付ける場合は、電子署名つきの控除証明書データをあわせて受け取ることで、証明書の書面の提出・提示に代えられます。
iDeCoの掛金は、本人の口座から引き落とされる場合と、会社が給与から差し引いて納付する場合で扱いが分かれます。給与から差し引いている場合は会社の給与データで集計済みのはずなので、申告書にも書かれていると二重計上になります。給与システムの控除項目と申告書を照らし合わせておくと安心です。
差し戻しを減らす案内文と、チェックの順番
保険料控除申告書の差し戻しは、配付時の案内でかなり減らせます。案内文に入れておきたいのは、①控除証明書を添付すること(電子交付を受けた人はデータか印刷書面で)、②証明書のどの金額を書くか、③新旧・区分を証明書のとおりに書くこと、④今年は23歳未満の扶養親族がいる人の計算が変わり、夫婦の両方が対象になり得ること、の4点です。国税庁の「年末調整がよくわかるページ」には、申告書の記載例や従業員に周知するための文例が掲載されています。
添付・提示の有無
新旧・3区分
申告額・今年支払分
23歳未満の特例
源泉徴収簿へ
チェックは、証明書の有無、区分、金額、計算の順に見ると効率的です。年調ソフトや給与システムが控除額を自動計算する場合でも、23歳未満の扶養親族の有無が正しく反映されていなければ、計算式Ⅰで計算されてしまいます。扶養控除等申告書や兼用様式の情報と連動しているか、ソフトの設定を一度確かめておきましょう。申告書の回収から全体の流れは前回の「年末調整の申告書、回収とチェックの実務」、年間の段取りは「年末調整の全体像とスケジュール」で整理しています。
控除証明書のデータをそのまま取り込める年調ソフトを使えば、転記ミスや証明書の確認の手間は大きく減らせます。選び方は「給与計算・労務のクラウド化、何を基準に選ぶか」でもまとめています。
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まとめ──今年は「23歳未満の扶養親族」の有無を必ず確かめる
- 保険料控除申告書の4つの控除は、いずれも「本人が今年支払ったもの」が対象。社会保険料と小規模企業共済等掛金は全額控除、生命保険料と地震保険料は上限つき
- 令和8・9年分は、23歳未満の扶養親族がいる人の一般生命保険料控除が最高6万円に(新制度の計算式も変更)。生命保険料控除全体の上限12万円は変わらない
- この特例は夫婦の両方が受けられる。扶養控除を受けていない側の従業員にも案内を
- 生命保険料は区分の取り違えと証明書の添付漏れ、地震保険料は旧長期損害保険料の扱いを確認。証明書が間に合わない場合は翌年1月末までの提出を条件に控除できる
- 国民年金・iDeCoなど本人が直接払った分は証明書が必要。給与から差し引いた分との二重計上に注意
保険料控除申告書は、1枚あたりの金額は小さくても人数分の確認が積み重なる書類です。今年は計算式が変わった年なので、ソフト任せにせず、23歳未満の扶養親族の有無と証明書の区分だけは目で確かめておきましょう。次回は、年末調整の対象者と、住宅ローン控除・中途入社者の扱いを取り上げます。
出典・参考
・国税庁「年末調整がよくわかるページ(令和8年分)」
・国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」(Ⅰ-2 年齢23歳未満の扶養親族を有する場合の生命保険料控除の特例、Ⅲ-2-3 保険料控除申告書の受理と内容の確認)
※本記事は執筆時点(2026年10月)の制度をもとに一般的な実務の流れを解説したものです。個別の判断は所轄の税務署や専門家にご確認ください。

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