年末調整の準備で意外と時間を取られるのが、「この人は年末調整をするのか、しないのか」の判定です。年の途中で入社した人、退職した人、副業先がある人、収入の多い役員。対象者を間違えると、計算以前に源泉徴収票の作り直しになります。シリーズ第4回は、年末調整の対象者の判定と、中途入社者の前職分の取り込み、住宅ローン控除(2年目以降)の書類を扱います。結論を先に言えば、対象者は「扶養控除等申告書を出しているか」「年末まで在籍しているか」「給与収入が2,000万円以下か」の3点でまず振り分け、中途入社者は前職の源泉徴収票を、住宅ローン控除は税務署から届く申告書兼控除証明書を、早めに回収するのがポイントです。
年末調整の対象になる人、ならない人
年末調整は、原則として、扶養控除等(異動)申告書を提出している人の全員について行います。ただし、例外的に対象にならない人がいます。国税庁の「令和8年分 年末調整のしかた」に沿って整理すると、次のとおりです。
・年の中途で就職し、年末まで勤務している人
・年の中途で退職した人のうち
- 死亡により退職した人
- 著しい心身の障害で退職し、本年中に再就職できないと見込まれる人
- 12月中に支給期の来る給与を受けた後に退職した人
- パートタイマー等で、本年中の給与総額が136万円以下の人(本年中に他から給与を受ける見込みの人を除く)
・年の中途で海外転勤などにより非居住者となった人
・災害減免法により給与の源泉所得税の徴収猶予・還付を受けた人
・2か所以上から給与を受け、他社に扶養控除等申告書を出している人や、申告書を出していない人(乙欄適用者)
・年の中途で退職した人(左の例外に当たらない人)
・非居住者
・日雇労働者など(丙欄適用者)
実務で引っかかりやすいのは3つです。1つ目は給与収入2,000万円超で、役員や高額報酬の従業員が該当し得ます。賞与の見込みで年の途中から2,000万円を超える人もいるので、12月の計算前に年間の支給見込みで確かめます。2つ目は乙欄の人で、副業先の会社に扶養控除等申告書を出している人や、入社時に申告書を回収できていない人です。給与システムの税区分と、申告書の回収状況を突き合わせておきます。3つ目は年の途中の退職者で、原則は対象外ですが、上の例外に当たる人は退職の時に年末調整を行います。
対象外の人は、本人が確定申告をして税額を精算することになります。国税庁も、対象とならない人には期限までに確定申告書を提出するよう指導してください、としています。年末調整をしない旨と、源泉徴収票を確定申告に使うことを本人に伝えておくと、翌年の問い合わせが減ります。なお、外国籍の従業員でも、国内に住所があるか1年以上居所がある居住者なら、同じ基準で判定します。
中途入社者は「前職の源泉徴収票」を必ず回収する
年の途中で入社し、年末まで在籍している人は年末調整の対象です。このとき、前の勤務先で扶養控除等申告書を出して受け取った給与も合算して年税額を計算します。そのために必要なのが、前職の本年分の「給与所得の源泉徴収票」です。前職の給与・源泉徴収税額・社会保険料等を取り込まないと、年税額の計算がずれ、本人の確定申告が必要になります。
・前職が複数 本年中に転職を重ねた人は、扶養控除等申告書を出していた勤務先の分をすべて集める
・源泉徴収票がない 前職に発行を依頼してもらう。間に合わない場合の扱い(本人の確定申告で精算するなど)は、事前に本人へ説明しておく
・入社前に無職期間 国民年金・国民健康保険を本人が払っていれば、保険料控除申告書で申告してもらう(前回参照)
入社手続の書類一覧に「前職の源泉徴収票(本年分)」を入れておくと、11月に慌てて集める必要がなくなります。
社会保険料の集計も同じです。国税庁は、本年中に転職してきた人については、前の勤務先で扶養控除等申告書を提出して受けた給与から差し引かれた社会保険料等も含めて集計するよう求めています。前職の源泉徴収票の「社会保険料等の金額」欄を、自社の給与から差し引いた分と合算します。
住宅ローン控除は「2年目以降」が年末調整の対象
住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は、控除を受ける最初の年分は本人の確定申告で適用を受ける必要があります。2年目以降は、本人が提出する「給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」に基づいて、年末調整で控除できます。入居1年目の人から「会社で控除してほしい」と言われたら、最初の年は確定申告が必要だと案内します。
「調書方式」は、金融機関が税務署に年末残高の調書を提出し、税務署から本人に年末残高の情報が提供される方式です。この場合、控除証明書や申告書に年末残高や控除額の見込みがあらかじめ記載されていることがあります。一方「証明書方式」は、本人が金融機関から年末残高等証明書を受け取って会社に提出する方式です。従業員がどちらの方式か分からないことも多いので、「金融機関の年末残高証明書が届いていれば一緒に出してください」と案内しておくと確実です。
住宅ローン控除の申告書で確かめること
住宅ローン控除の申告書は、従業員が自分で記入する部分が多く、確認に時間がかかります。国税庁の「年末調整のしかた」が挙げる注意事項のうち、会社で確かめやすいものを並べると次のとおりです。
・所得要件 令和4年1月1日以後に居住した人は、本年分の合計所得金額が2,000万円を超えると適用なし(令和3年以前の居住は原則3,000万円)。給与以外の所得がある人に注意
・連帯債務 年末残高に本人の負担割合を掛けて計算しているか。控除証明書に負担割合の記載がなければ、備考欄に連帯債務者の記入が必要
・繰上返済・返済遅延 実際の年末残高が証明書と違う場合は、正しい金額で申告し直してもらう
・紛失 申告書や控除証明書をなくした人には、本人が税務署に再交付を申請するよう案内する
提出を受けた住宅借入金等特別控除申告書は、給与の支払者の下で保管することとされています。
控除額そのものは、令和元年以降に入居した人なら税務署から届いた申告書で控除限度額を確認できます。所得税から控除しきれなかった分は、翌年度の個人住民税から控除される場合があります。従業員から「住民税も安くなるのか」と聞かれたら、市区町村の扱いになると伝えれば足ります。
年末調整をする時期──退職時と12月
年末調整は、本年最後に給与を支払う時に行うのが原則で、通常は12月です。ただし、年の途中で死亡退職した人、著しい心身の障害で退職した人、12月の給与を受けた後に退職した人、給与総額136万円以下のパートタイマー等で退職した人は退職の時に、海外転勤などで非居住者になった人は非居住者となった時に行います。退職者の対応は、退職手続のチェックリストに組み込んでおくと漏れません。
また、12月に賞与と通常の給与を支払う会社で、賞与を先に支払う場合は、賞与の支払の際に年末調整を行うこともできます。この場合は後で支払う給与の見積額を加えて計算し、実際の支給額が見積りと違えばやり直しになります。精算の月の考え方は次回で扱います。全体のスケジュールは「年末調整の全体像とスケジュール」、申告書の回収は「年末調整の申告書、回収とチェックの実務」で整理しています。
入社・退職の情報が年税額になるまで──部署ごとの役割分担
対象者の判定と書類の回収は、給与担当だけでは完結しません。入社・退職の情報を持っているのは人事、住宅ローンや前職の書類を持っているのは従業員本人、源泉所得税を納めるのは経理です。誰が・いつ・何を渡すかを決めておかないと、年末調整の数字はどこかでずれます。
この情報が最後にどの数字になるかも押さえておきます。前職の源泉徴収票を取り込めなければ、年調年税額がずれ、源泉徴収票と給与支払報告書の「支払金額」「源泉徴収税額」も違う数字になります。その誤りは翌年度の住民税の税額にも引き継がれます。乙欄のままの人がいれば毎月の源泉徴収税額が多いまま年を越し、本人の確定申告が必要になります。人事から給与担当への連絡が1件止まるだけで、税額・住民税・本人の手続まで連鎖して数字がずれる、という点を部署間で共有しておくことが大切です。
対象者の判定や前職分の取り込みは、給与システムで税区分と入社日・退職日を正しく管理していれば、かなり自動化できます。選び方は「給与計算・労務のクラウド化、何を基準に選ぶか」でもまとめています。
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まとめ──対象者の判定と書類回収を11月までに
- 年末調整は扶養控除等申告書を出している人が原則。給与収入2,000万円超、乙欄・丙欄、年の途中の退職者(例外を除く)、非居住者は対象外
- 対象外の人には、確定申告で精算する必要があることを伝える
- 中途入社者は前職の本年分の源泉徴収票を回収し、給与・税額・社会保険料等を合算する。入社時の書類一覧に入れておく
- 住宅ローン控除は最初の年は確定申告、2年目以降は年末調整。令和8年分の申告書と控除証明書(証明書方式なら年末残高等証明書も)を回収する
- 死亡退職・12月給与後の退職・136万円以下のパート退職などは、退職の時に年末調整を行う
対象者の判定は、年末調整の中でもっとも地味な作業ですが、ここを誤ると計算も源泉徴収票もすべてやり直しになります。11月のうちに対象者リストを固め、前職の源泉徴収票と住宅ローン控除の書類を揃えておきましょう。次回は、年税額の計算と過不足の精算(12月給与か1月給与か)、経理との連携を扱います。
出典・参考
・国税庁「年末調整がよくわかるページ(令和8年分)」
・国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」(Ⅱ 年末調整とは:2 年末調整の対象となる人、3 年末調整を行う時/Ⅲ-2-3 社会保険料控除、2-4 住宅借入金等特別控除申告書の受理と内容の確認)
※本記事は執筆時点(2026年10月)の制度をもとに一般的な実務の流れを解説したものです。個別の判断は所轄の税務署や専門家にご確認ください。

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