「試用期間が終わって本採用になったら、社会保険に入ってもらいます」。中小企業や創業間もない会社で、今もときどき聞く運用です。会社にとっては保険料の負担を先送りでき、本人にとっても最初の数か月の手取りが減らないので、双方に悪くない話に見えるかもしれません。しかし、社会保険の加入は試用期間の有無では決まりません。この記事では、試用期間中の社会保険・雇用保険の扱いと、例外とされる「2か月以内の雇用契約」の考え方、後から加入漏れになったときの影響を整理します。結論を先に言えば、加入要件を満たす働き方なら、試用期間中でも入社日から加入です。「本採用から」という運用は、加入漏れとして後から遡って精算することになります。
試用期間は、加入を遅らせる理由にならない
健康保険・厚生年金保険の被保険者になるかどうかは、雇用契約の名前や試用期間の有無ではなく、適用事業所に常用的に使用されているかで判断します。日本年金機構も「試用期間中でも報酬が支払われる場合は、使用関係が認められる」と案内しています。つまり、正社員として採用し、所定労働時間・日数が常時雇用者と同じであれば、試用期間の初日から被保険者です。
パートやアルバイトとして採用する場合も考え方は同じで、1週の所定労働時間と1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上なら加入します。4分の3未満でも、特定適用事業所などで週の所定労働時間が20時間以上、学生でないなどの要件を満たせば被保険者になります。いずれの場合も、資格取得届は事実発生(入社日)から5日以内に提出します。
・「本人が手取りを優先して加入を望まない」→ 本人の希望で加入・未加入は選べない
・「3か月の試用期間は有期契約と同じ」→ 試用期間は本採用を前提にした期間で、「2か月以内の期間を定めて使用される人」の例外には当たらないのが通常
例外の「2か月以内の雇用契約」と、令和4年10月の見直し
健康保険・厚生年金保険には、「2か月以内の期間を定めて使用される人」は被保険者としないという例外があります。ただしこれは、最初から短期間で終わることが決まっている有期契約のための例外です。令和4年10月からは扱いが見直され、当初の雇用期間が2か月以内であっても、その期間を超えて雇用されることが見込まれる場合は、契約の当初から被保険者になります(それまでは、2か月を超えた時点から加入する扱いでした)。
日本年金機構のQ&Aでは、次のどちらかに当たれば「2か月を超えて雇用されることが見込まれる」と判断するとしています。
アかイに当たっても、労使双方が最初の契約期間を超えて使用しないことに合意している場合は、見込みがあるとはされません。また、当初は見込みがなかったのに途中で更新が見込まれることになった場合は、その時点で資格を取得します。「試用期間の2か月は有期契約にして、問題なければ無期に切り替える」という設計にしても、就業規則に更新や本採用の定めがあれば、多くの場合はアに当たり、最初から加入が必要になります。
雇用保険も「試用期間だから」は通らない
雇用保険も同じで、試用期間かどうかは関係ありません。1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば、入社日から被保険者です。資格取得届は、被保険者となった日の属する月の翌月10日までにハローワークへ提出します。転職者の場合は、前職の被保険者番号を引き継いで届け出ます(被保険者証が見つからないときの対応は「雇用保険被保険者証をなくしたときの実務」で整理しています)。
なお、令和6年の雇用保険法改正により、2028年(令和10年)10月1日からは、週の所定労働時間の要件が「20時間以上」から「10時間以上」に引き下げられる予定です。短時間のパート・アルバイトを試用期間付きで採用している会社は、いまのうちから対象者の見込みを把握しておくと慌てずに済みます。
後から加入漏れになると、何が起きるか
試用期間中に加入させていなかったことが年金事務所の調査などで分かると、入社日に遡って資格を取得し、その間の保険料を納めることになります。保険料を徴収する権利の時効は2年なので、遡りは最大2年分です。会社負担分に加えて本人負担分もまとめて精算が必要になり、本人の給与から一度に控除するのか、分割にするのか、会社が立て替えるのかで揉めることも少なくありません。手続きの流れと精算の考え方は「社会保険の加入漏れ・遡及加入の実務」で詳しく扱っています。
本人にとっても、未加入の期間は健康保険証がなく、病気やけがのときの傷病手当金、厚生年金の加入期間といった保障に穴が空きます。「手取りが減らないほうがありがたい」と本人が言っていたとしても、後から困るのは本人です。入社時の説明で、試用期間中も加入すること、その理由を一言添えておくと、誤解のまま入社することを防げます。
入社前に確認しておきたいこと
□ 有期契約にする場合、就業規則や契約書に更新・本採用の定めがないか(あれば当初から加入)
□ 所定労働時間・日数から、社会保険(4分の3基準・短時間労働者の要件)と雇用保険(週20時間・31日)の加入要件を判定したか
□ 資格取得届の期限(社会保険は5日以内、雇用保険は翌月10日まで)を入社手続きの段取りに入れたか
□ 入社時の案内で、試用期間中も加入すること・初回給与から保険料を控除することを説明したか
入社手続き全体の流れは「入社手続きは『人事の仕事』ではない」「入社後の手続きガイド」でも整理しています。資格取得届を出した後で入社日や報酬が変わった場合の訂正は「社会保険の訂正手続き」をご覧ください。
入社のたびに加入要件の判定と届出の期限管理を手作業で行っていると、試用期間の扱いのような判断が担当者ごとにぶれやすくなります。従業員情報と労務手続きをクラウドでまとめて管理する方法もあります。
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まとめ──加入は「働き方」で決まる
- 試用期間中でも、報酬が支払われ加入要件を満たす働き方なら、入社日から社会保険・雇用保険に加入する
- 「2か月以内の期間を定めて使用される人」の例外は、更新の見込みがない短期契約のためのもの。令和4年10月以降は、見込みがあれば契約当初から加入
- 本人の希望で加入・未加入は選べない。加入漏れは最大2年遡って精算になる
- 雇用保険は2028年10月から週10時間以上に対象が広がる予定
- 雇用契約書で契約期間と試用期間を書き分け、入社前に加入要件と届出期限を確かめておく
試用期間は、会社と本人がお互いを見極めるための期間であって、保険の加入を待つための期間ではありません。入社初日から制度の上でも「仲間」として扱うことが、後の精算トラブルを防ぎ、本人の安心にもつながるのだと思います。
【出典・参考】
・日本年金機構「適用事業所と被保険者」
・日本年金機構「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行(令和4年10月施行分)に伴う事務の取扱いに関するQ&A集」
・日本年金機構「就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き」
・厚生労働省 令和6年雇用保険法等改正の概要資料(雇用保険の対象拡大・施行期日)
※本記事は執筆時点の制度をもとに一般的な実務の流れを解説したものです。個別の判断は所轄の年金事務所・ハローワークや専門家にご確認ください。

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