副業や複数社の役員兼務が増える中で、静かに対象者が増えている制度があります。社会保険の「二以上勤務(二以上事業所勤務)」です。2か所以上で社会保険の加入要件を満たすと、それぞれの給与を合算して保険料を計算する、という仕組み。あまり知られていませんが、実務担当者にとっては「ある日突然、控除額がズレる」という形で表面化する、やっかいなテーマです。この記事の中ほどに按分計算ツールも組み込んでいますので、合わせて使いながら整理してみてください。
二以上勤務とは――合算して保険料を計算する仕組み
二以上勤務は、これまでは役員が複数の会社を経営しているケースが多数でした。ところが最近は、副業の広がりや社会保険の適用拡大もあり、対象者が増えてきていると感じます。勤務形態としては、常勤役員+常勤役員、あるいは常勤役員+従業員、といった組み合わせが多いでしょう。
制度の中身はこうです。2か所以上の事業所で、それぞれ社会保険の加入要件を満たす場合、それぞれの会社で被保険者資格を取得します。そのうえで、各社の報酬を合算して標準報酬月額を決定し、その保険料を各社の報酬比率で按分する。これが二以上勤務の社会保険料の考え方です。
会社が「感知しないところ」で届出される
ここに、実務上の最初の落とし穴があります。二以上勤務の届出(被保険者所属選択・二以上事業所勤務届)は、原則として本人が申請する仕組みになっているのです。事実発生から10日以内に、本人が年金事務所(事務センター)に提出します。
つまり、会社が感知しないところで、年金機構に届出がされる可能性があります。従業員や役員が副業を始め、その先でも社会保険に加入し、本人が届出を出す。会社は、その事実を知らされていないことがある。ある日、年金事務所から「二以上事業所勤務被保険者標準報酬決定通知書」が届いて、はじめて「この人は二以上勤務だったのか」と気づく――そういうことが起こり得ます。
何が問題か――控除額が急にズレて、端数が出る
では、何が実務上の問題になるのか。最大のポイントは、通常の社会保険の等級とは異なる保険料が控除される点です。
通常、給与から控除する社会保険料は、給与システムが標準報酬月額に基づいて自動でセットします。担当者も「この人はこの控除額」と把握できています。ところが二以上勤務になると、合算した標準報酬月額を各社の報酬比率で按分するため、控除額が変わります。これまで分かっていた控除額が、急にズレる。しかも按分計算の結果、きれいな金額にならず、端数が出たりします。
経理にとっては「不明の端数」になりかねない
この端数が、経理サイドに回ると、さらにやっかいです。経理は、給与から控除された社会保険料を処理します。ところが、ある人の控除額が急にズレて端数が出ても、経理にはその理由が分かりません。なぜなら、「その人が二以上勤務である」という情報は、本人のプライバシーに関わる個人情報であり、経理が入手しづらいからです。
副業の事実、他社での報酬額――こうした情報は、おいそれと共有されません。結果として、経理から見ると「原因の分からない端数」が発生し、不明金のような扱いになりかねない。数字の整合性を扱う経理にとって、理由の分からないズレは、もっとも気持ちの悪いものです。
人事の「気遣い」が、部署横断の鍵になる
ここで効いてくるのが、人事の視点です。人事が「二以上勤務は、経理や給与計算にこういう影響がある」と知っていれば、先回りの気遣いができます。たとえば、副業の届出が出てきたとき、その回覧先に経理や労務を加えておく。「この人は副業を始めた=将来的に二以上勤務になり、控除額がズレるかもしれない」という情報を、関係部署が事前に共有できる状態にしておく。たったこれだけのことで、後から経理が「謎の端数」に悩むことを防げます。
副業の解禁は、人事制度の話に見えて、実は経理・労務まで波及します。届出の回覧先を一つ増やす、という小さな配慮が、部署横断のトラブルを未然に防ぐ。二以上勤務は、まさに管理部門が横断で向き合うべきテーマなのです。
按分計算ツールで試算してみる
二以上勤務の保険料按分は、計算が複雑で、手計算では間違えやすいところです。各社の報酬額を入れると、合算後の標準報酬月額、各社の保険料、本人の天引き額まで自動で計算するツールを用意しました。下に直接組み込んでいますので、その場で試算できます。
ただし、最終的に控除すべき金額は、年金事務所から届く「二以上事業所勤務被保険者標準報酬決定通知書」に記載された額が正式です。このツールはあくまで概算・確認用としてお使いください。
まとめ
二以上勤務は、副業や役員兼務の広がりで、対象者が静かに増えている制度です。本人が届出するため、会社が知らないうちに二以上勤務になっていることがあり、ある日突然、控除額がズレて端数が出る。その端数は、個人情報の壁があるために、経理では「原因不明」になりかねない。だからこそ、人事が制度の影響を理解し、副業届の回覧先に経理・労務を加えるといった気遣いをすることが、部署横断のトラブルを防ぎます。制度を知り、部署で連携する。それが、二以上勤務という見えにくいテーマへの、もっとも確実な備えです。
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