規程シリーズ、これまで見てきたのは「ある」規程でした。どの会社にも必ずある定款、そして多くの会社にある就業規則。それらを実態に合わせて見直す話でした。今回は、その先です。IPO準備では、今は「ない」規程を、新たに大量に作り、運用していくことになります。その全体像と、意外と知られていない「規程を変える手間」の意味について、実務目線で整理します。
上場時には、規程が50を超える
IPO準備では、これまでの人事関連規程に加えて、組織関係規程、役員関係規程、業務関係規程、経理関係規程などを、新たに作成し、運用していく必要があります。一般的に、上場する時点では50を超える規程を整備することになると言われています。就業規則くらいしか思い浮かばなかった会社が、50超のルールで動く会社に変わる。これが、IPOで起きることです。
作って終わりではない――組織が変わるたびに、規程も変わる
そして、これらの規程は、作って終わりではありません。組織名称の変更や、部署の新設、権限の変更――会社に変化があるたびに、関係する規程をアップデートしていく必要があります。
成長中の会社ほど、組織は頻繁に変わります。新しい部署ができれば、業務分掌規程と職務権限規程を直す。決裁権限を見直せば、稟議規程を直す。規程の中に古い部署名が残っていれば、規程と実態がズレた状態になり、上場審査でも問題になります。50超の規程を、常に実態と一致させ続ける。この維持管理こそが、規程整備の本当の仕事です。
規程の変更は「取締役会決裁」――1か月はかかる
ここで、重要なポイントがあります。規程の変更は、取締役会の決裁事項になる、ということです。多くの社内規程の制定・改廃は、会社法上の「重要な業務執行の決定」に該当すると考えられており、取締役会での決議が必要です。上場審査でも、「規程の改廃手続きが、取締役会などの機関できちんと決定されているか」がチェックされます。
つまり、規程を一つ変えるにも、事前の準備(改定案の作成・調整)、取締役会での審議・決議、そして施行という流れを踏むことになり、1か月は見る必要があります。以前の記事で書いたとおり、取締役会の議案は担当者が先回りして準備するものですから、規程の改定も、組織変更のスケジュールから逆算して、議案として仕込んでいくことになります。
「遅い」「なぜ手間を」と言われる――それでも、意味がある
すると、こう言われることがあります。「遅い」「なぜ、そんな手間のかかることをするのか」と。
気持ちは、よく分かります。今までは、号令一つで「今から」「明日から」ができていたからです。社長が決めれば、その場でルールが変わる。それが、スタートアップのスピードでした。それに比べれば、1か月かけて取締役会を通す手続きは、たしかにまだるっこしく見えます。
けれど、この手間には、はっきりとした意味があります。組織運営にあたって必要な準備をすること。関係者の足並みを揃えること。そして、内容を審議すること。この一連のプロセスこそが、内部牽制として機能し、独断を防止するのです。誰か一人の思いつきで、その日からルールが変わる会社は、裏を返せば、誰か一人の暴走を止められない会社でもあります。変更に手続きと時間がかかることは、非効率なのではなく、会社を守る仕組みなのです。「遅くなった」のではなく、「一人で決められない会社になった」。それが、上場会社に近づいた証だと考えると、この手間の意味が、腹に落ちるのではないでしょうか。
まとめ
IPO準備では、人事関連の規程に加えて、組織関係・役員関係・業務関係・経理関係などの規程を新たに作り、上場時には50を超える規程を運用することになります。しかも、作って終わりではなく、組織名称の変更・新設・権限変更のたびにアップデートが必要です。規程の変更は取締役会の決裁事項であり、事前準備・取締役会・施行と、1か月は見る必要があります。「遅い」と言われることもありますが、準備をし、足並みを揃え、審議するというその手間こそが、内部牽制として働き、独断を防ぎます。号令一つの会社から、ルールと手続きで動く会社へ。規程を作り、育てる作業は、その変化そのものなのです。
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※本記事は、IPO準備に携わった経験に基づく一般的な見解です。規程の整備・改廃の進め方については、監査法人・主幹事証券会社・弁護士等の専門家にご相談ください。制度は改正されることがあります。

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