障がい者雇用について、非常に素晴らしい取り組みを目にしました。2026年8月に三菱UFJ銀行が公表した、障がい者活躍を推進する2つの新しい仕組みです。特に、障がい者雇用の最も難しい核心に、正面から向き合っている点に感銘を受けました。障がい者雇用に携わった経験も踏まえ、コーポレートの視点でこの取り組みの意義を読み解きます。
障がい者雇用の核心にある「難しさ」
障がい者雇用に携わった経験から痛感するのは、障がいと一言で言っても、その特性や必要な配慮は一人ひとりまったく異なるということです。同じ診断名でも、心地よく働ける条件はそれぞれ違う。それを個々の業務にフィットさせていく作業は、想像以上に難しく、手間のかかるものです。
この難しさは、当事者である企業自身が、最もよく分かっています。記事の中でも、担当者が次のように率直に語っています。
「配属部署でOJTや勤務管理を行うことにも人員やノウハウの制約がある」
――これは、多くの企業が直面している共通の壁。
「業務適性や必要な配慮を見極めることは容易ではない」「OJTや勤務管理にも人員やノウハウの制約がある」。これはまさに、多くの企業が直面している共通の壁です。法定雇用率という数字はあっても、その先で「どう活躍してもらうか」の部分に、決定的なノウハウ不足と現場の負担がある。ここが、障がい者雇用の本当の難所です。
難しさを「個人の努力」でなく「仕組み」で解決する
この取り組みが優れていると感じるのは、その難しさを現場の管理職個人の努力に押し付けず、「インクルージョン・ハブ」という仕組みとして解決しようとしている点です。
入社後すぐに配属するのではなく、1〜3年かけて特性や得意な業務、必要な配慮を明確にし、本人の同意を得たうえで配属部署に情報を共有する。さらに配属部署には基礎研修を行う。障がいのある社員と受け入れ部署の双方に伴走するこの設計は、以前から課題だった「配慮のノウハウ不足」と「現場の負担」を、組織的に引き受ける仕組みになっています。
ポイントは、この設計思想です。従来、障がいのある社員の受け入れは、配属された部署の管理職や周囲の社員の「善意」と「頑張り」に委ねられがちでした。しかし、それでは属人的で、うまくいくかどうかは配属先次第になってしまう。この取り組みは、その属人性を排し、専門部署が伴走することで、誰が受け入れても一定水準の支援ができる形にしています。これは、当サイトでも繰り返し触れてきた「属人化を仕組みで解消する」という発想の、まさに好例です。実際、この銀行本体で障がいのある方を10名規模で採用したのは、2010年以来のことだといいます。
自社の知見を、社外にも還元する
そして、社外向けの「チャレンジドバンク」で、自社の知見を他企業にも還元しようとしている点も、注目に値します。
特例子会社の管理経験を持つ人材が中心となり、コンサルティングだけで終わらせず、配属候補の部署にまで入り込んで一緒に考える。「どのような業務を担えるか」「どのような人がマッチするか」を、利用企業の担当者とともに検討する。この伴走力こそ、障がい者雇用を「法定雇用率を満たすこと」から「本当に活躍してもらうこと」へと引き上げる鍵だと思います。実際、約1年半で6社を支援し、20名規模の社員の定着と、30名規模の新規採用を後押ししてきたと報じられています。単なる助言で終わらない、現場に踏み込む支援だからこその成果でしょう。
問われているのは「量」ではなく「質」
この取り組みの背景を理解すると、その重要性がより鮮明になります。法定雇用率が2.7%に引き上げられ、精神・発達障がいのある方の雇用が急務となるなか、多くの企業が「量」の確保に追われています。
しかし本質は「質」、つまり働きがいを持って安心して活躍できる環境をどう作るかにあります。数字だけを追って採用しても、必要な配慮や活躍の場がなければ、早期離職につながり、本人にとっても企業にとっても不幸な結果になりかねません。「雇用率は満たしたが、活躍してもらえていない」という状態は、実は珍しくないのです。難しいからと個人任せにするのではなく、仕組みとノウハウで支える。この事例は、これからの障がい者雇用のひとつの理想形を示していると感じます。
まとめ
- 障がいの特性や必要な配慮は一人ひとり違い、業務にフィットさせるのは難しい。「見極めの困難」と「現場のノウハウ・人員の制約」が共通の壁
- その難しさを管理職個人でなく「インクルージョン・ハブ」という仕組みで解決。1〜3年かけて特性を見極め、同意を得て共有し、受け入れ部署にも研修
- 「チャレンジドバンク」で知見を社外にも還元。コンサルで終わらず配属候補部署まで入り込む伴走力が、活躍支援の鍵
- 法定雇用率2.7%で量の確保に追われるが、本質は質。難しさを個人任せにせず、仕組みとノウハウで支える理想形
障がい者雇用は、多くの企業にとって「やらなければならないこと」でありながら、「どうやればいいか分からない」という悩みがつきまとう領域です。だからこそ、その難しさから目を背けず、仕組みとして正面から引き受けるこの取り組みには、大きな価値があります。そして、その知見を自社に閉じず、社会全体に還元しようとする姿勢もまた、示唆に富みます。雇用率という数字の達成をゴールにするのではなく、一人ひとりが本当に活躍できる環境をどう作るか。この問いに、仕組みで answer を出そうとする姿勢に、これからの障がい者雇用のあるべき方向を見た思いがします。
【出典・参考】
・三菱UFJフィナンシャル・グループ「共生社会の実現へ 障がい者活躍を支える新たな挑戦」(2026年8月27日)
※本記事は公表情報をもとに一般的な考察を目的として作成したものであり、特定の企業や施策の効果を保証するものではありません。数値は出典記事に基づく参考値です。
