IPO準備における管理部門構築の連載、いよいよ最終回です。第1回から第4回まで、経理、人事・労務、総務、内部監査という4つの機能を見てきました。最終回のテーマは、それらすべてに共通する、そして最大の実務課題である「人材の確保」です。どれだけ理想的な管理部門の姿を描いても、それを担う人がいなければ、絵に描いた餅に終わります。コーポレート実務の視点で、各機能の人材確保の難しさと、その現実的な乗り越え方を総括します。
機能ごとに違う、人材確保の難易度
管理部門の各機能は、それぞれ求められる専門性が異なります。そのため、人材を確保する難易度も、機能によって大きく変わります。まず、これまで見てきた4機能を、人材確保という観点で整理してみます。
| 機能 | 人材確保の難易度と特徴 |
|---|---|
| 経理 | 希少だが、存在する。専門性が高く引く手あまただが、経験者という「型」が明確なので、探せば見つかる |
| 人事・労務 | 比較的、確保しやすい。経験者の母数が多く、採用のハードルは相対的に低い |
| 総務 | 領域が人によって様々。「総務経験者」の中身が一定でない。特に法務まで担える経験者は少ない |
| 内部監査 | 厳格すぎる人は注意。IPOのフェーズを理解し、成長段階に合わせられる人が望ましい |
経理人材は、希少ではありますが、存在します。専門性が高く引く手あまたではあるものの、「経理経験者」という求める型が明確なので、時間をかければ探し出せます。人事・労務は、経験者の母数が比較的多く、確保しやすい領域です。
難しいのが、総務と内部監査です。総務は、前回述べたとおり、その領域が会社によって様々で、「総務経験者」と言っても中身が一定しません。特に、法的な対応まで踏まえた経験を持つ人は、あまり多くありません。内部監査は、前回触れたとおり、厳格にしすぎるとIPOフェーズにマッチしないため、成長段階に合わせられる、IPOの状況が分かる人材が望ましい。これらは、単に「経験者」を探すだけでは、なかなか要件を満たせません。
「目当ての人材」を掘り出す難しさ
各機能とも、基本的には経験者の採用を進めることになります。しかし、実際にやってみると、目当ての人材を掘り出すのは、なかなか難しいのが現実です。求めるスペックにぴったり合う人は、そう簡単には見つかりません。
そして、この難しさは、管理部門を統括するCFO(最高財務責任者)の採用においても、同じように立ちはだかります。むしろ、統括ポジションだからこそ、より深刻です。
・経理はできるが、労務は分からない
——「CFO」という肩書きの中身は、その人の経歴によって大きく異なる。
管理部門のすべてを一人でカバーできる万能なCFOは、めったにいない。
CFOと一口に言っても、その得意領域は人によって大きく異なります。ファイナンス、つまり資金調達や投資家対応には長けているが、管理部門の地道な実務は未経験、という人。あるいは、経理には精通しているが、労務の領域は分からない、という人。管理部門のすべてを一人で完璧にカバーできる万能な人材は、めったに存在しないのです。理想を追い求めるほど、採用は難航します。
「一人の完璧」より「組み合わせ」で考える
では、望みのスペックを満たす人材が見つからないとき、どうするか。ここで発想を転換します。一人の完璧な人材を探すのではなく、複数の専門性を組み合わせて、機能を満たすという考え方です。
一つの機能を、必ずしも一人の正社員で担う必要はありません。外部の専門家や、機能の分担によって、必要な専門性を確保していく。いくつかの例を挙げます。
法務は弁護士に、労務は社会保険労務士に。CFOの機能は、ファイナンス担当とCAO(最高管理責任者)とに分散する。こうした様々な組み合わせを考えて、必要な専門性を寄せ集め、全体として上場会社レベルの管理部門を構築していくのです。一人の万能人材に固執せず、正社員・外部専門家・機能分担を柔軟に組み合わせる。この現実的な発想が、人材確保の難所を乗り越える鍵になります。
もちろん、外部の専門家に頼りきりでは、社内にノウハウが蓄積されません。外部の力を借りて足元の機能を満たしながら、並行して社内人材を育て、徐々に内製化していく。この時間軸の設計も、管理部門構築の重要な視点です。
連載のまとめ──管理部門構築とは何だったか
全5回にわたって、IPO準備における管理部門構築を見てきました。最後に、連載全体を振り返ります。
- 経理:会計システム、決算早期化、監査対応、予算策定。数字の信頼性を担う管理部門の中核
- 人事・労務:計画的な採用、評価・教育、トラブル対応、法令遵守、そして離職の深い管理
- 総務:「総じて務める」職。抜け落ちた仕事を引き受け、IPOで役割が一気に広がる
- 内部監査:ガバナンスを守る要。杓子定規を避け、成長段階に合わせて水準を高める
- 人材確保:各機能で難易度が異なる。一人の完璧を求めず、専門家との組み合わせで上場水準を実現する
IPO準備における管理部門構築とは、突き詰めれば、「上場企業として通用する、人と仕組みの土台を作る」ことです。経理、人事・労務、総務、内部監査。それぞれの機能を上場水準に引き上げ、それを担う人材を、現実的な工夫で確保していく。華やかな事業の成長の裏で、この地道な土台づくりが着実に進んでいるかどうかが、IPOの成否を静かに、しかし決定的に左右します。
そして、この管理部門構築は、一朝一夕には成りません。時間をかけて、機能を整え、人を集め、育て、仕組みを回していく。その道のりは決して平坦ではありませんが、ここで築いた土台は、上場後の企業経営を長く支える財産になります。本連載が、その土台づくりに取り組む方の一助となれば幸いです。
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ワンキャリア転職|企業の年収・クチコミ・選考対策等の転職情報が満載※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の上場準備や管理部門の人材採用・体制構築を保証するものではありません。具体的な体制設計にあたっては、主幹事証券会社・監査法人・各分野の専門家にご相談ください。

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