IPO準備における管理部門構築の連載、第3回のテーマは「総務(および法務)」です。第1回で経理、第2回で人事・労務を扱ってきました。今回の総務は、経理や人事とは、少し性格の異なる部門です。総務というと、地味なイメージを持つかもしれません。しかし、そこには重要な役割が詰まっていて、IPOフェーズでは、その役割が一気に広がり、深まります。コーポレート実務の視点で、この「つかみどころのない部門」の本質を解き明かします。
総務とは「総じて務める」職である
経理や人事といった部門は、ある程度、担うべき役割(ポジション)が決まっています。だからこそ、その経験を持った人材を、外部から採用することができます。「経理経験者」「労務担当者」といった募集で、必要なスキルを持つ人を探せるのです。
しかし、総務は違います。なぜなら、総務は字のごとく「総じて務める」職だからです。
そうやって、どの部門からも抜け落ちた仕事が、総務に溜まっていく。
そして、その溜まり具合は、会社によってまったく異なる。
だから総務は、「これができれば総務」という一律の型を持たない。
他の職種で抜け落ちた仕事が溜まっていく場所。それが総務です。そして、その溜まり具合は、会社によって異なります。ある会社では契約管理が総務の仕事でも、別の会社では法務が担う。ある会社では総務がシステム管理までやっているが、別の会社では情報システム部門がある。この「会社ごとに中身が違う」という点が、総務という職の、つかみどころのなさであり、同時に本質でもあります。
溜まった仕事が、やがて「分化」していく
総務に溜まっていく仕事は、はじめのうちは、担当者が「なんとなく」こなしています。明確な専門性が求められる前の段階では、器用な人が幅広く対応することで、なんとか回っていきます。
しかし、会社が成長し、溜まった仕事が一定のボリュームに達し、専門家でなければ対応できない段階になると、総務から専門部署が分かれていきます。
契約や法律対応が増えれば法務部へ、計画立案や分析が増えれば経営企画へ、IT関連が増えれば情報システム部へ。総務という母体から、専門機能が枝分かれしていくのです。逆に言えば、これらの専門部署がまだ独立していない会社では、それらの仕事はすべて総務に含まれている、ということになります。総務の範囲が会社ごとに違うのは、この分化の進み具合が、会社ごとに違うからです。
IPOフェーズで、総務のレベルが一気に上がる
そして、ここが最も重要な点です。IPOフェーズに入ると、総務に求められるレベル感が、一気に上がります。それまで「なんとなく」こなしていた仕事が、上場企業の水準で、正確に、漏れなく求められるようになるのです。
その象徴が、ガバナンス体制の変化に伴う業務の急増です。非上場のオーナー企業では、代表取締役が1人で、多くの意思決定を実質的に完結できていたかもしれません。しかしIPO準備では、取締役が増え、社外役員が加わり、組織としての意思決定と、その記録が求められるようになります。
代表取締役1人だったのが、取締役が増えて取締役会の運営が必要になり、登記事項が増加し、規程の整備が求められ、反社チェックの運用が始まる。こうして、総務の役割は、幅広く、そして急速に広がっていきます。それまで「なんとなく」で許されていたことが、上場企業の水準で問われるようになる。このレベルアップに対応できるかどうかが、IPOフェーズの総務の正念場です。
「誰もやらないこと」を引き受ける機能
取締役会や株主総会の運営、会議体の運営、登記、契約のサポートと管理。これらは総務の代表的な業務ですが、総務の本質は、実はもっと広いところにあります。それは、誰もやらないこと、どの部門の担当でもないことを、引き受けて処理する機能です。
会社を運営していれば、どの部門にもきれいに当てはまらない仕事が、必ず生じます。オフィスの管理、備品や設備の手配、各種の問い合わせ対応、突発的なトラブルの処理。こうした「隙間の仕事」を拾い、会社が滞りなく回るようにする。これは、目立たないけれど、組織にとって不可欠な機能です。総務が機能していない会社は、こうした隙間の仕事が放置され、あちこちで小さな不具合が積み重なっていきます。
IPO準備という、ただでさえ全部門が忙しくなる局面では、この「隙間を埋める総務」の存在が、いっそう重要になります。準備の過程で次々に生じる、どこの担当とも言えない新しい業務を、総務が引き受けて回していく。その柔軟さと守備範囲の広さが、組織全体の推進力を支えます。
まとめ
- 総務は「総じて務める」職。経理・人事などから抜け落ちた仕事が溜まる場所で、その中身は会社によって異なり、一律の型を持たない
- 溜まった仕事が一定のボリュームに達すると、法務・経営企画・情報システムなどの専門部署へ分化していく。分化の進み具合が、総務の範囲を決める
- IPOフェーズで総務のレベルは一気に上がる。取締役会の運営、株主総会、登記事項の増加、規程整備、反社チェックなど、業務が幅広く急速に広がる
- 本質は「誰もやらないこと」を引き受ける機能。隙間の仕事を拾い、会社を滞りなく回す。IPO準備の局面で、その価値はいっそう高まる
総務は、地味に見えて、実は最も奥が深く、最もその会社らしさが表れる部門かもしれません。決まった型がないぶん、担当者の力量と、会社の成長段階が、そのまま仕事の中身に反映されます。そしてIPO準備は、その総務が、幅広い専門性と正確さを一気に求められる試練の場です。ここを乗り越える力が、上場企業としての組織運営の基盤になります。次回は、管理部門構築の第4回として、内部監査を取り上げます。
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ワンキャリア転職|企業の年収・クチコミ・選考対策等の転職情報が満載※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の上場準備や総務・法務体制の構築を保証するものではありません。登記・契約・会議体運営などの具体的な対応にあたっては、司法書士・弁護士・主幹事証券会社等の専門家にご相談ください。

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