深夜料金は、コスト構造を映す鏡

すき家・松屋に続き、ココイチも深夜料金を導入する。2026年9月にBusiness Journalが報じた、この外食チェーンの動きを、コーポレートの立場から見ると、経営上ごく合理的な判断だと感じます。むしろ、これまで全国一律・時間帯一律の料金が「普通」とされてきたことのほうが、採算構造から考えると無理があったのだと思います。価格とコストの関係を、実務の視点で読み解きます。

目次

「全国一律・時間帯一律」のほうが、無理があった

そもそも、全国どこでも同じ料金という仕組みは、個別店舗の採算を考えると、相当に難しいものです。私たちは「同じチェーンなら同じ値段」を当たり前と思っていますが、店舗ごとのコスト構造は、まったく違います。

同じ商品でも、店舗ごとに粗利構造が違う理由
賃料:都心と地方で何倍も違う
地域別最低賃金:地域によって差がある
来店客数:繁盛店と閑散店で、売上に対する固定費の重みが変わる
→ 同じメニューを同じ値段で売っても、店舗ごとに残る利益はまったく異なる。

都心と地方では賃料が何倍も違い、地域別最低賃金にも差があります。同じメニューを同じ値段で売っても、店舗ごとに残る利益はまったく異なる。さらに来店客数で見ても、繁盛している店と閑散とした店で、売上に対する固定費の重みが変わります。同じ商品でも、店舗によって粗利の構造がまるで違うのです。全国一律の価格は、こうした差を無視して成り立っていた、とも言えます。

深夜割増という、分かりやすいコスト要因

店舗ごと・時間帯ごとのコスト差のなかでも、深夜割増賃金は特に分かりやすい要因です。時間帯によってコストが跳ね上がることが、法律で明確に定められているからです。

労働基準法で、22時から翌5時の労働には25%以上の割増賃金が義務付けられています。そこに、最低賃金の引き上げと基本時給の上昇が重なる。記事にある「三重の押し上げ圧力」という表現の通りです。実際、2026年度の最低賃金の引き上げ目安は全国平均1176円と、過去2番目の引き上げ幅が示されています。

① 基本時給の上昇
② 深夜割増(25%以上)
③ 最低賃金の引き上げ

加えて、深夜も冷暖房や照明は動き続け、光熱費もかかります。人件費と固定費が経費の大半を占める外食業において、これらを価格に反映させなければ、深夜帯はそもそも利益が出ない構造になっています。テイクアウトにも加算するのは、厨房が動いている限りコストは発生するという、当たり前の事実に価格を合わせた結果でしょう。「持ち帰りには接客がないのに、なぜ」という声もありますが、深夜に調理し、店を開けているコストは、店内飲食も持ち帰りも変わらないのです。

より本質的な問題は「深夜営業そのものが減っている」こと

ただ、私がより本質的だと感じるのは、そもそも深夜営業そのものが減っている、という点です。深夜料金を取るかどうかは、その手前にある、もっと大きな問題の一部にすぎません。

深夜営業から撤退する、三つの理由
人の確保が難しい(深夜に働く人材が集まらない)
採算が合わない(コスト増で利益が出ない)
防犯上のリスク(深夜帯の安全確保)
→ 24時間営業・深夜営業から撤退する店舗が相次いでいる。

人の確保が難しい、採算が合わない、そして防犯上のリスクもある。こうした理由から、24時間営業や深夜営業から撤退する店舗が相次いでいます。この文脈で捉えると、深夜料金の導入は、いわば「営業を続けるための最後の選択肢」です。営業時間を短縮して深夜需要を手放すより、7%の上乗せを受け入れてもらいながら営業を維持するほうが合理的だ、という判断です。そして、その選択肢すら成り立たない店は、営業時間の短縮へと向かっているのが実情です。深夜料金を導入できるのは、まだ深夜需要で戦えている、体力のある店とも言えます。

価格は、コスト構造を映す鏡

この一連の動きから見えてくるのは、価格の付け方は、その事業のコスト構造を映す鏡だ、ということです。そして、その鏡をどう見せるかに、企業の姿勢が表れます。

ステルス値上げ
内容量を減らして単価を据え置く。気づかれずに単価を維持できるが、気づかれたときに信頼を損ないやすい
正面から示す(深夜料金)
「深夜にはこれだけコストがかかる」と明示する。短期的に反発はあっても、何にいくら払うかを消費者と共有できる

「ステルス値上げ」で気づかれずに単価を維持するより、「深夜にはこれだけコストがかかる」と正面から示す。短期的には反発もあるでしょう。しかし、何にいくら払っているのかを消費者と共有する時代に、入ってきたのだと感じます。実際、先行して深夜料金を導入したチェーンでは、導入直後に客数が激減するような事態は確認されておらず、「深夜料金は悪」から「深夜に温かい食事を提供してもらうことへの正当な対価」へと、消費者の受け止めも変化しつつあるようです。

コストを隠さず、正当な対価として説明する。この誠実さこそが、これからのブランドの信頼を左右するのだと思います。値上げの是非を論じる段階から、「何にいくら払うか」を消費者と共有し、その使途をどれだけ丁寧に説明できるかを競う段階へ。外食業界は、その入口に立っているのだと感じます。

まとめ

  • 深夜料金の導入は経営上合理的。むしろ全国一律・時間帯一律の料金のほうが、店舗ごとの採算構造からは無理があった
  • 深夜割増は分かりやすいコスト要因。基本時給・深夜割増・最低賃金引き上げの「三重の押し上げ圧力」に光熱費も重なる
  • テイクアウトへの加算は、厨房が動く限りコストは発生するという事実に価格を合わせた結果。より本質的には、深夜営業そのものが減っている
  • 価格はコスト構造を映す鏡。ステルス値上げより、コストを隠さず正当な対価として説明する誠実さが、ブランドの信頼を左右する

深夜料金というと、消費者にとっては負担増のニュースに映ります。しかし、その裏側にあるコスト構造を読み解くと、これは外食業界が持続可能な形で営業を続けるための、避けられない選択であることが見えてきます。そして、その選択を消費者にどう説明するか。ここに、これからの企業の誠実さが問われます。何にいくら払っているのかを、隠さず、正面から示す。その姿勢こそが、価格転嫁の時代における、ブランドの信頼の土台になるのだと感じています。

【出典・参考】
Business Journal「すき家・松屋に続きココイチも深夜7%加算…客離れしない“強気価格”チェーンの共通点とは」(2026年9月1日、文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)

本記事は公表情報をもとに一般的な考察を目的として作成したものであり、特定の企業の評価や投資判断を推奨するものではありません。数値は出典記事に基づく参考値です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次