IPO準備で整備する50超の規程の中で、最初に手をつけるべきものは何か。答えは組織規程です。組織規程は、会社にどんな組織があり、誰が指揮命令するのかを定める規程であり、他のすべての規程が前提とする土台にあたります。ここが曖昧なままでは、業務分掌規程も職務権限規程も、そして稟議規程も、書きようがありません。
一方で、組織規程は「作った後」が最も難しい規程でもあります。成長中の会社では組織が頻繁に変わり、そのたびに規程を実態に合わせ続ける必要があるからです。本記事では、組織規程に何を書くのか、兄弟規程とどう役割分担するのか、そして実態とのズレをどう防ぐのかを、コーポレート実務の視点で整理します。
組織規程は「箱」を定める規程
組織関係の規程は、通常「組織規程」「業務分掌規程」「職務権限規程」の三つがセットで機能します。この三つの役割分担を理解しておくことが、規程整備の出発点です。
本部・部・課といった組織単位の設置、職位、指揮命令系統を定める
部門ごとに担当する業務の範囲を定める。責任の所在を明確にする
職位ごとの決裁権限、金額基準、承認ルートを定める
この三つは、順番に依存関係があります。組織規程で「営業本部の下に営業一部を置く」と定めて初めて、業務分掌規程で「営業一部は既存顧客への販売を担当する」と書けます。そして業務分掌が定まって初めて、職務権限規程で「営業一部長は◯◯万円までの値引きを決裁できる」と書ける。逆に言えば、組織規程が実態とズレていると、その下の二つも自動的にズレます。
実務上、規程整備でつまずく会社の多くは、この依存関係を意識せずに三つを並行して作ろうとしています。組織規程を先に確定させることが、遠回りに見えて最短ルートです。
組織規程の標準的な構成
組織規程に決まった型はありませんが、上場企業の規程を見ると、おおむね次のような構成に収れんします。
特に重要なのは「職務の代理・代行」
見落とされやすいのが第4章です。部門長が出張や休暇で不在のとき、誰が決裁するのか。この定めがないと、実務では「とりあえず上長が代わりに押印する」といった運用が生まれ、職務権限規程との整合が取れなくなります。
内部統制の観点でも、代行のルールが不明確な状態は指摘対象になりやすい論点です。誰が代行できるのか、代行者はどこまでの権限を持つのか、事後報告は必要か──ここを組織規程で明確にしておくと、職務権限規程の運用が安定します。
実務上の最大の論点──組織図をどこに置くか
組織規程を設計するうえで、実務的に最も悩ましいのが組織図の扱いです。
前提として、社内規程の制定・改廃は、会社法上の「重要な業務執行の決定」として取締役会決議事項とされるのが一般的です。つまり、組織規程を変更するたびに取締役会にかける必要があります。ここで、組織図を規程の本文に直接書き込んでしまうと、部署を一つ新設するだけで規程改定=取締役会決議が必要になり、機動性を失います。
メリット:規程だけで組織が分かる
デメリット:組織変更のたびに規程改定・取締役会決議が必要
メリット:運用しやすい
注意点:別表の改定手続と決定機関を、必ず条文で明示すること
実務では後者を採る会社が多いですが、ここで手を抜いてはいけないのが「別表を誰がどう変えるか」の定めです。別表にしたことで手続が不明確になれば、それは規程の不備そのものです。たとえば「組織の新設・改廃は取締役会の決議による。ただし、課以下の組織の設置および名称変更は社長が決定し、取締役会に報告する」といった形で、決定機関と報告義務をセットで書いておく。この設計であれば、機動性を確保しつつ、取締役会による監督も担保できます。
どこまでを社長決定に委ねるかは、会社の規模や取締役会の開催頻度によって判断が分かれる部分です。主幹事証券や監査法人との協議の中で、自社の実態に合った線引きを決めておくとよいでしょう。
上場審査で見られるのは「三つの一致」
組織規程について審査で確認されるのは、規程の文言の巧拙ではありません。次の三つが一致しているかどうかです。
ありがちなズレを挙げます。
- 廃止した部署名が規程に残っている:組織図は更新したが、規程の別表を直し忘れているパターン。最も多い指摘です。
- 規程にない組織が実在する:プロジェクトチームや専任担当を実質的な部署として運用しているが、規程上の位置づけがない。恒常的な組織であれば、規程に反映するか、臨時組織として設置根拠を定める必要があります。
- 兼務が反映されていない:一人が複数部門を統括している実態があるのに、規程・組織図では別々の部門長がいるように見える。人員規模の小さい準備会社で頻出します。
- 改廃の決議記録がない:組織変更は行われたが、取締役会議事録に決議の記録が残っていない。規程の内容以前に、手続の証跡が問われます。
いずれも、規程の中身を練り込むことでは防げません。組織変更の意思決定プロセスに、規程改定を組み込んでおくかどうかで決まります。
運用設計──組織変更と規程改定を同じ列車に乗せる
実務的な打ち手はシンプルで、組織変更の検討が始まった時点で、規程改定を同じ案件として扱うことです。人事異動の発令日から逆算して、次のような流れを標準化しておきます。
ポイントはSTEP3で組織変更と規程改定を同一議案にすることです。別議案にすると、組織変更だけが決議されて規程改定が後回しになる、という事態が起こります。一つの議案にまとめておけば、構造的にズレが生じません。
あわせて、規程の附則に改定履歴を必ず残してください。「令和◯年◯月◯日 一部改定(施行日:同日)」という一行の積み重ねが、審査対応時に「規程が適切に維持管理されてきた」ことを示す証拠になります。取締役会議事録と附則の履歴が突合できる状態にしておくことが理想です。
まとめ
組織規程の要点を整理します。
- 組織規程は「箱」を定める規程であり、業務分掌規程・職務権限規程の前提となる。三つの依存関係を意識し、組織規程から順に固める
- 組織図は別表化して機動性を確保しつつ、別表の改定手続と決定機関を条文で必ず明示する
- 職務の代理・代行の定めを省略しない。ここが曖昧だと職務権限規程の運用が崩れる
- 審査で見られるのは「規程=組織図=実態」の一致。組織変更と規程改定を同一議案で決議する運用にしておく
規程整備は、ひな形を入手して社名を差し替えれば終わる作業ではありません。自社の組織の実態を言語化し、それを維持し続ける仕組みまで含めて設計する仕事です。組織規程はその起点にあたるため、時間をかける価値が最も高い一本と言えます。
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特急印刷ならプリントライダー※本記事は一般的な実務上の考え方を整理したものであり、個別の規程整備や上場審査対応への適用を保証するものではありません。実際の規程設計にあたっては、主幹事証券会社、監査法人、または弁護士等の専門家にご相談ください。

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