新聞やニュースで報じられる新卒の給与は、初任給30万円超といった、とても高い水準のものばかりです。それを見るたびに「うちはとても太刀打ちできない」と感じていた人事担当の方も多いのではないでしょうか。だからこそ、この調査の平均額を見て、正直なところ少し安心しました。
マイナビが実施した「2027年卒 企業新卒採用予定調査」によると、2027年卒の初任給を引き上げる企業は89.1%に上りました。その平均支給額は23万7,903円で、3年連続の増加です。労務の実務に携わる立場から、この数字が示すものを読み解きます。
「報道の30万円」と「実態の約24万円」
まず、平均支給額23万7,903円という数字に注目します。報道で目立つ突出した金額とは違い、多くの企業はこのくらいの現実的な幅で対応しているというのが実態です。
報道で目にする30万円超は、あくまで一部の企業の突出した数字です。世の中全体がその水準にあるわけではありません。平均が約24万円だという事実は、初任給引き上げに悩む中小企業にとって、一つの安心材料になると思います。周囲の派手な数字に押されて過剰な引き上げに走る前に、まず実態の平均を知っておくことには意味があります。
引き上げの動きは、企業規模を問わず広がっています。従業員300人未満で88.5%、300〜999人で89.7%、1,000人以上で91.1%と、大企業に限った話ではありません。規模の小さい会社も、この流れの中にあります。
引き上げ理由に表れる「守りの賃上げ」
今の賃上げの本質は、その理由に表れています。
最も多いのが「求職者へのアピールのため」で59.8%。そして「他社が引き上げているため」が48.2%と続きます。ここに、今の賃上げの本質が表れていると感じます。積極的な成長投資というより、採用競争と横並び意識に押される形での引き上げが多いのです。
言い換えれば、「上げたいから上げる」のではなく「上げないと採用で負ける」という守りの賃上げが、じわじわと広がっているということです。業績が伸びたから還元する、という前向きな理由が上位に来ているわけではありません。この構造を理解しておくことは、自社の判断を考えるうえで重要です。
もう一つ見逃せないのが、2番目の「全社員の給与も引き上げるため」が49.7%を占めている点です。初任給だけを上げれば済む話ではなく、それが全社の給与体系に波及するという実務認識が、すでに半数の企業に共有されている。これは次の論点につながります。
初任給を上げること自体はゴールではない
コーポレート実務の視点で言えば、初任給を上げること自体はゴールではありません。むしろ、上げると決めた後にこそ、難しい調整が数多く待っています。
特に「既存社員との逆転」は、放置すると既存社員の不満や離職に直結します。新人を採るために初任給を上げた結果、数年働いてきた社員のモチベーションが下がり、辞めてしまう──これでは本末転倒です。初任給の引き上げは、必ず賃金テーブル全体の見直しとセットで考える必要があります。先ほどの調査で半数の企業が「全社員の給与も引き上げる」を理由に挙げていたのは、この現実を反映したものでしょう。
そして、これらの調整には原資が伴います。初任給の引き上げ額だけを見て「これくらいなら」と判断すると、既存社員への波及分を含めた総額で想定を大きく超えることがあります。単年度の採用施策としてではなく、複数年の人件費計画として捉えることが欠かせません。
まとめ──平均額を「冷静な物差し」として使う
派手な数字に一喜一憂するのではなく、自社の体力と採用戦略に見合った水準を冷静に見極めること。今回の平均額23万7,903円は、その判断のよい物差しになると感じています。
報道される突出した金額は、自社の基準にはなりません。むしろ振り回されると、身の丈に合わない引き上げで賃金体系を崩したり、原資を圧迫したりしかねません。実態の平均を知り、そのうえで自社の採用競争力と財務体力のバランスの中で水準を決める。守りの賃上げが広がる局面だからこそ、周囲に流されない冷静な判断が、管理部門には求められています。
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・ITmedia ビジネスオンライン「2027年卒の初任給、約9割の企業が引き上げ 平均支給額は?」(2026年7月24日)
・株式会社マイナビ「マイナビ 2027年卒 企業新卒採用予定調査」
※本記事は公表情報をもとに一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の賃金設定や人事制度への適用を保証するものではありません。実際の制度設計にあたっては、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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