②IPOで伴走する外部関係者の選び方

前回の「IPOの心得」で、「主幹事・監査法人には嘘をつかず素直に相談する」と書きました。今回は、その外部関係者を一人ずつ掘り下げます。IPOは、自社だけでは実現できません。主幹事証券、監査法人、信託銀行、印刷会社――数多くの外部のプロと組んで、初めて上場にたどり着きます。それぞれの役割と、付き合い方の勘所を、実務目線で整理します。

IPOで伴走する主な外部関係者
主幹事証券会社 上場準備全般の指導・引受審査。推薦がなければ上場できない
監査法人 直前2期の財務諸表監査・内部統制の助言。選んだら変えられない
信託銀行(株式事務代行) 株式・SOの管理、定款・株式規程のサポート
証券印刷会社 開示書類の制作・印刷。宝印刷かプロネクサスの二択
その他の専門家 IRコンサル・株価算定・弁護士・税理士・社労士など
目次

主幹事証券会社――最重要。最も厳しく見られ、最もよく理解してくれる

外部関係者の中で、最も重要なのが主幹事証券会社です。主幹事の推薦(取引所への推薦書・報告書)がなければ、そもそも上場はできません。

主幹事は、ガバナンスの整備、予算設定、スケジュール管理、課題管理まで、上場準備の全般を指導・伴走します。そして、引受審査では、会社を最も厳しく見ます。上場後に不祥事や業績の下方修正が起きれば、推薦した主幹事自身が投資家から責任を問われるため、審査は厳格です。一方で、最も厳しく見るからこそ、会社のことを最もよく理解してくれる存在でもあります。この主幹事とどう付き合うかが、上場の成否を大きく分けます。

主幹事は、変えることもできます。ただし、変えた場合、その理由は必ず聞かれます。「なぜ前の主幹事と別れたのか」は、次の主幹事や取引所にとって、会社を見極める材料になるからです。安易な変更は、かえって不信を招きます。だからこそ、最初の選定を慎重に行い、選んだら信頼関係を築いていくことが大切です。

監査法人――選んだら、変えられない。変更は「上場延期」を意味する

監査法人は、上場会社にふさわしい会計が整備されているかを審査し、開示資料をチェックする存在です。Iの部(新規上場申請のための有価証券報告書)の監査と、内部統制(J-SOX)整備の助言を担います。

監査法人の最大の特徴は、一度選んだら、基本的に変えられないことです。そして、これは単に「変えにくい」という話ではありません。監査法人を変更することは、事実上、上場の延期を意味します。

なぜなら、上場には、同じ監査法人による直前2期分の監査証明が必要だからです。上場直前の2期間(直前々期・直前期)の財務諸表について、監査法人の監査を受け、適正意見をもらう必要があります。しかも、遡って監査することは原則できません。途中で監査法人を変えれば、新しい監査法人のもとで、また2期分の監査をやり直すことになる。つまり、変更した時点で、上場は最低でも2年先送りになるのです。「変えられない」の本当の意味は、ここにあります。

⚠ 監査法人をめぐる「上場延期」リスク
監査法人を変更する → 新しい監査法人で2期分の監査をやり直し → 上場が最低2年先送り
会計整備が監査法人の基準を満たさない → 適正意見が得られず → 上場延期
いずれも、上場スケジュールそのものを崩す重大事。だからこそ最初の選定と、経理体制の水準が決定的に重要

そして、経理責任者にとっては、監査法人と同等のレベル感が求められます。監査法人が要求する会計水準に、経理責任者がついていけるか。もしレベルが未達であれば、責任者の変更を求められることもあります。

さらに重要なのは、会計整備そのものが監査法人の基準を満たさない場合、それもまた上場延期を意味するということです。監査法人が求める水準で会計が整備・運用されていなければ、適正意見は得られません。適正意見がなければ、上場はできない。つまり、経理体制の整備が遅れること自体が、上場スケジュールを直接的に脅かすのです。監査法人と組むということは、自社の経理体制そのものが、上場会社の水準に引き上げられることを意味します。担当する監査チーム、特にパートナーやインチャージ(主任)との相性も、長い付き合いになるだけに、見極めておきたいポイントです。

信託銀行(株式事務代行機関)――早く付き合ってよい

信託銀行(株式事務代行機関)は、上場までの株式やストックオプションの管理を担います。株主名簿の管理が主な役割で、上場会社は株主名簿管理人の設置が形式要件として定められているため、必ず選定が必要です。

実務的にありがたいのは、定款や株式取扱規程の整備をサポートしてくれる点です。株式まわりのルール作りは専門性が高く、自社だけで進めるのは大変ですが、信託銀行が助けてくれます。さらに、株主総会の招集通知の書き方や、総会運営についての助言も得られます。

そして、ここが実務上のポイントですが、信託銀行は上場までは無償か定額でサポートしてくれることが多い。コスト面のハードルが低いので、早い段階から付き合いを始めても損がありません。むしろ、早く相談して、株式まわりの整備を前倒しで進めるのが賢いやり方です。

証券印刷会社――宝印刷かプロネクサスの二択

開示書類(Iの部、有価証券届出書、目論見書など)の制作・印刷を担うのが、証券印刷会社です。この分野は、宝印刷とプロネクサスの2社で、市場のほぼ100%を占めています。実質的に、この二択です。

どちらも高い専門性と豊富な実績を持っているため、選定にあまり悩む必要はありません。選ぶ基準は、開示担当者が使いやすい方を選ぶ、というのが実際的です。両社とも開示書類作成の支援システムを提供しているので、自社の担当者がどちらのシステムやサポートと相性が良いかで決めるのが、現場目線では合理的です。

なお、証券印刷会社は、外部関係者の中で唯一、取引所の規則で選定が義務づけられていません。それでも、契約しないという選択肢は事実上ありません。開示書類は法律や取引所規則に基づく高度な専門知識が要るため、専門会社の支援なしに自社だけで作るのは現実的でないからです。

その他の専門家――IPOは「チーム戦」

ここまでの主要な関係者に加えて、IPOには実に多くの専門家が関わります。

IR資料を作るコンサルタント。ストックオプション発行の際に株価を算定する専門家。顧問弁護士(法務・反社チェック・知的財産)。顧問税理士(資本政策・税務)。顧問社労士(労務監査・労務リスク対応)。内部通報窓口。上場申請書類を作るコンサルタント。挙げていけば、本当にさまざまな関係者がいます。

IPOは、一社の力で成し遂げるものではなく、これらの専門家とのチーム戦です。それぞれの専門性を借りながら、自社はその全体を取りまとめ、課題を一つずつ解決していく。管理部門は、いわばこのチームのハブとして、各関係者との連携を束ねる役割を担います。誰と組み、どう連携を設計するか。その全体像を描けることが、上場準備を担う管理部門に求められる力なのだと思います。

まとめ

IPOで伴走する外部関係者は、主幹事証券(最重要・最も厳しく見られる)、監査法人(選んだら変えられない・変更や会計整備の未達は上場延期に直結)、信託銀行(早く付き合ってよい)、証券印刷会社(宝印刷かプロネクサスの二択)、そしてIRコンサル・株価算定・弁護士・税理士・社労士など、多岐にわたります。それぞれに役割があり、付き合い方の勘所があります。誰と、どう付き合うか。その設計こそが、上場の成否を分けます。IPOはチーム戦であり、管理部門はその要として、外部関係者との連携を束ねる役割を担うのです。

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※本記事は、IPO準備に携わった経験に基づく一般的な見解です。個別の関係者選定にあたっては、監査法人・主幹事証券会社・専門家にご相談ください。制度や実務は変わることがあります。

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