⑬経理規程は『作っておいて』では済まない

規程シリーズの各論、今回は経理規程です。前回の基本規程が「汎用的なものが多く、ひな形で効率よく」という話だったのに対し、経理規程は、対照的です。会社特有の要素が強く、作成に時間を要する。しかも、監査法人から監査を受けるうえで、非常に重要になります。なぜ経理規程は「規程を作っておいて」で済まないのか。その理由と勘所を、実務目線で整理します。

目次

経理規程は、監査を受けるうえで非常に重要

経理規程は、会社の会計処理のルールを定める規程です。これは、監査法人から監査を受けるうえで、非常に重要になります。監査法人は、会社の会計処理が適正かを見ますが、その前提として、「そもそも、この会社はどういうルールで会計処理をしているのか」が明文化されている必要があるからです。

だからこそ、自社の会計処理に合わせて、そしてこれから起こり得る事象にも合わせて、規程として明文化しておく必要があります。売上をいつ計上するか、固定資産をどう扱うか、引当金をどう見積もるか。こうした会計方針を、担当者の頭の中や慣行ではなく、規程という形にしておく。これが、監査を受けられる会社の土台になります。

「規程作っておいて」では、済まない

ここが、経理規程の最大の特徴です。ある程度の型はあるものの、内容は会社特有になります。そのため、構成や内容について、経理部門の状況をしっかり把握する必要があります。

経理は、数字の処理が中心の仕事です。だからこそ、「規程作っておいて」と丸投げして対応できるケースは、ほとんどありません。その会社が、どんな取引をしていて、どう会計処理しているのか。今後、どんな会計事象が発生し得るのか。それを一つひとつ把握しなければ、実態に合った規程は書けないのです。汎用のひな形をそのまま当てはめても、自社の会計処理と食い違えば、意味がありません。

そして、経理規程づくりは、監査法人とのコミュニケーションを踏まえて進めます。監査法人と対話しながら、経理の現状と、これから目指す姿を、言語化していく。この作業には、相応の時間がかかります。他の汎用的な規程のように、短期間では仕上がりません。経理規程の作成に時間を要するのは、それだけ、自社の実態と向き合う必要があるからなのです。

「規程」と「マニュアル・細則」を、どう使い分けるか

経理のルールは、すべてを「規程」に書き込むわけではありません。一般的には、階層で使い分けます。

経理規程(上位)
基本的な経理処理・重要な会計方針
(売上計上基準など)
変更は取締役会等の承認。簡単には変えない
マニュアル・細則(下位)
細かめの具体的な取扱い・手順
現場で機動的に変えられるよう運用

基本的な経理処理は、経理規程に定めます。一方、細かめの内容は、マニュアルや細則に落とし込み、現場で変えられるように運用していきます。規程は、変更に取締役会の決裁が必要で、重い。だから、頻繁に見直す細かい手順まで規程に書き込むと、機動性を失います。逆に、重要な会計方針を細則に埋もれさせては、統制が効きません。この「どこまでを規程に、どこからを細則に」の線引きが、経理規程設計の肝です。

「細かめ」の線引き――減損のように「稀だが影響が大きい」ものは規程へ

では、その線引きは、どう考えるか。単純に「細かいことは細則」ではありません。「細かめ」の中身を、よく検討する必要があります。

たとえば、減損。あまり頻繁には発生しない会計事象です。頻度だけ見れば、「稀なことだから細則でいい」と思うかもしれません。けれど、減損は、いざ発生したときの金額的な影響が非常に大きい。損益に与えるインパクトが甚大です。だから、こういうものは、稀であっても規程に定めておく。頻度ではなく、「発生したときの影響の大きさ」で、規程に格上げすべきかを判断するのです。頻度が低くても重大なものは規程で押さえ、頻度は高くても定型的な手順は細則に委ねる。この判断軸を持つことが大切です。

知見のある人の意見を、汲み上げて作る

こうした判断は、一人では難しいものです。だからこそ、経理規程は、上場に関すること、そして経理・会計について知見のある人の意見を汲み上げて作ります。

監査法人はもちろん、上場準備の経験者、会計の専門家。彼らの知見を借りながら、「自社の場合、何を規程に定め、何を細則に委ねるべきか」を固めていく。上場準備は、監査法人による問題点の指摘、会社による改善、監査法人による再確認、というサイクルを繰り返して進みます。経理規程づくりも、まさにこのサイクルの中にあります。一度書いて終わりではなく、対話を重ねて磨き上げていく。時間はかかりますが、その過程そのものが、監査に耐えうる経理体制を作っていくのだと思います。

まとめ

経理規程は、監査を受けるうえで非常に重要で、自社の会計処理と今後の事象に合わせて明文化する必要があります。ある程度の型はあっても内容は会社特有になるため、経理部門の状況を把握し、監査法人とのコミュニケーションを通じて、経理の現状と目指す姿を言語化していく。作成に時間を要するのは、そのためです。ルールは、基本的な会計処理を「規程」に、細かめの取扱いを「マニュアル・細則」に、と階層で使い分けます。その線引きは頻度ではなく影響の大きさで考え、減損のように稀でも影響の大きいものは規程に定める。そして、上場と会計に知見のある人の意見を汲み上げて作る。「規程を作っておいて」では決して済まない、実態と対話し続ける規程――それが経理規程です。

【PR】

ワンキャリア転職|企業の年収・クチコミ・選考対策等の転職情報が満載

※本記事は、IPO準備に携わった経験に基づく一般的な見解です。経理規程の整備や会計方針の決定にあたっては、監査法人・公認会計士等の専門家にご相談ください。会計基準・制度は改正されることがあります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次