規程シリーズ、就業規則の次は、人事考課・人事評価規程です。これらは、法的な要素で言えば、就業規則と比べると少し落ちます。作成が法律で義務づけられているわけではないからです。けれど、企業の持続的な発展のためには、従業員の能力向上や、モチベーションの維持が欠かせません。その土台となるのが、評価の仕組みです。IPO審査で何が問われるのかも含めて、整理します。
法的義務は緩い。でも「持続的な発展」に直結する
就業規則は、労働基準法で作成・届出が義務づけられた規程でした。一方、人事考課・人事評価の規程には、そうした法律上の作成義務はありません。作らなくても、法令違反にはならない。その意味で、「法的な重み」は就業規則より一段軽いと言えます。
けれど、経営上の重みは別です。会社が持続的に発展していくには、従業員が能力を伸ばし、意欲を持って働き続けてくれることが必要です。何を頑張れば評価されるのか。評価されたら、処遇にどうつながるのか。それが見えない会社で、人は長く頑張れません。評価制度は、法律のためではなく、会社の成長のために要る規程なのです。
審査で問われるのは、「目的」と「運用」
では、IPO審査の観点では、何が見られるのか。ポイントは二つです。
一つは、「何を目指して、人事評価制度があるのか」。そもそも「良い従業員」とは何か。これには色々な意味合いがあります。売上を上げる人か、後輩を育てる人か、会社の価値観を体現する人か。会社として、どんな人材を評価し、育てたいのか。その目的が制度に落ちているかが問われます。目的の定まらない評価制度は、ただの査定作業になってしまいます。
もう一つは、「しっかり運用されているか」。規程が立派でも、実際の評価がルールどおりに行われていなければ意味がありません。上場審査では、制度が整備されているかだけでなく、規程どおりに運用されているか、その実態まで確認されます。作って終わりではなく、回して初めて評価される。これは、規程シリーズを通じて何度も出てきた、共通の原則です。
「社長の一存」から、「説明できる評価」へ
そして、ここがIPO準備での最大の転換点です。IPOを目指す前は、評価も昇給も、社長の判断で大部分が決まっていたかもしれません。社長が全員の働きぶりを見ていて、「彼はよくやった」「彼女は昇給だ」と決める。小さな組織では、それで十分に機能していたはずです。
けれど、上場準備では、ここを変える必要があります。恣意性を排除し、評価結果を説明できるようにするのです。評価の基準を明文化する。評価のプロセスを定め、一人の判断だけで決まらない仕組みにする。そして、「なぜこの評価なのか」を、本人にも、審査する側にも、説明できる状態にする。誰が評価しても、おおむね同じ結果になり、その根拠を示せる。これが、上場会社に求められる評価の姿です。属人的な経営から、組織的な経営へ。評価制度は、その移行を最も象徴する領域の一つです。
賞与の決め方も、同様に
賞与の決め方についても、同じことが言えます。会社全体の賞与原資をどう決めるのか。それを個人にどう配分するのか。評価結果と賞与が、どういうロジックでつながっているのか。
ここが「社長の胸三寸」のままでは、上場会社の姿とは言えません。原資の決定方法と、個人への配分ルールを定め、評価制度と連動させる。従業員から見れば、「頑張れば、こう報われる」という見通しが立ち、それがモチベーションの土台になります。審査の観点でも、従業員の観点でも、行き着く先は同じです。決め方を定め、そのとおりに運用し、結果を説明できること。評価も、賞与も、この原則に尽きます。
まとめ
人事考課・人事評価規程は、就業規則ほどの法的義務はありませんが、従業員の能力向上とモチベーション維持、つまり会社の持続的な発展に直結する規程です。審査で問われるのは、何を目指した制度なのかという「目的」と、規程どおりに回っているかという「運用」。そして、IPO準備の核心は、社長の一存で決まっていた評価を、恣意性を排除し、結果を説明できる仕組みへと変えることです。賞与の決め方も同様です。「なぜこの評価か」を説明できる会社は、従業員からも、市場からも、信頼される会社なのだと思います。
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