IPO準備の基本は、「規程を整備し、運用すること」です。今回から、この規程整備の話に入ります。規程と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは就業規則くらいかもしれません。けれど、規程整備の出発点は、実はもっと手前にあります。それが、どの会社にも必ずある「定款」です。規程とは何か、なぜ定款から始めるのかを、実務目線で整理します。
中小企業にとって、規程は「お飾り」だった
正直なところ、一般的な中小企業にとって、規程はお飾りでしかない、というのが実態だと思います。思いつく規程といえば、就業規則がせいぜい。作ったきり見返すこともなく、実際の仕事は、規程ではなく「これまでのやり方」や「社長の判断」で回っている。それが、多くの会社の日常です。
けれど、IPOでは、ここが根本から変わります。ルールに沿ったことを、組織でしていく。これが、上場会社に求められる、最も基礎的で、最も重要なことと言っていいと思っています。属人的な判断ではなく、定められたルールに基づいて、誰がやっても同じように業務が回る。そのルール化こそが、規程です。規程の整備とは、会社の動き方を「人」から「ルール」へと置き換えていく作業なのです。
一番上位のルールは「定款」――まずここから見る
では、規程整備はどこから始めるか。まず、定款を見てみましょう。定款は、会社設立の時に必ず作成しているので、どの会社にもあります。「会社の憲法」とも呼ばれる、社内ルールの最上位に位置する存在です。
ところが、設立時に作ったきり、中身を見返したことがない、という会社が少なくありません。事業は成長し、組織は変わったのに、定款だけが設立当時のまま。規程整備の第一歩は、この定款が「今の会社の実態と合っているか」を確認することから始まります。
定款の「目的」は、実態と合っているか
最初に確認したいのが、定款の「目的」です。会社は、定款に定めた目的の範囲内で事業を行うのが原則です。つまり、定款の目的に書かれていない事業を行っているとしたら、それは定款に反する状態です。直接の罰則はありませんが、上場を目指す会社にとって、実態と定款が食い違ったままというのは許されません。今の事業が目的に含まれているか、必ず確認しましょう。
逆のパターンもあります。今はしていない事業が、目的に記載されたままになっているケースです。この場合は、削除が必要です。実態のない事業目的が並んでいると、会社の実像が見えにくくなり、外部からの信頼にも関わります。
そして、ここが大事な点ですが、定款の目的は登記事項です。登記簿は誰でも閲覧できるため、外部の人が「この会社は何をしている会社か」を把握するとき、一番最初に見られるのが、この目的なのです。主幹事証券も、監査法人も、金融機関も、取引先も、まずここを見る。定款の目的は、会社の「自己紹介」そのものだと考えると、整えておく重要性が分かります。
定款には「機関設計」も書かれている
定款に書かれているのは、目的だけではありません。この会社が取締役会設置会社なのか、監査役を置く会社なのか、といった機関設計の重要な事項も、定款に記載されています。
以前の記事で、IPO準備の第一歩として取締役会の設置を取り上げましたが、あの取締役会設置に伴う定款変更も、まさにこの話です。IPO準備の過程では、機関設計の変更に合わせて、定款に改定を重ねていくことになります。定款は「作ったら終わり」の書類ではなく、会社の成長に合わせて育てていく、生きたルールなのです。
まとめ――まずは、今の定款を確認してみる
規程の整備とは、会社の動き方を「人」から「ルール」へ置き換えていくことであり、IPO準備の最も基礎的な土台です。その第一歩が、社内ルールの最上位にある定款の確認です。今の事業が目的に含まれているか。していない事業が残っていないか。機関設計の記載は実態と合っているか。まずは、自社の今の定款が正しい状態かどうか、確認してみましょう。設立以来、一度も見返していないなら、なおさらです。定款が整って初めて、その下にぶら下がる各種規程の整備へと、進んでいくことができます。
※本記事は、IPO準備に携わった経験に基づく一般的な見解です。定款の変更や登記手続きにあたっては、司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。制度は改正されることがあります。
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