新しく上場した会社の約8割で、CTO(最高技術責任者)の肩書を持つ人が確認できなかった──。2026年10月にPR TIMESで公表された、人材紹介会社キープレイヤーズによる新規上場企業103社の調査です。AIが事業のつくり方を変えつつある今、この数字は「技術の責任者がいない」ことを意味するのか。数字以上に考えさせられる結果だと感じます。IPO実務に携わってきた立場から、その意味を読み解きます。
調査で何がわかったのか
調査の対象は、2025年1月1日から2026年9月30日までに東京証券取引所へ新規上場した103社(TOKYO PRO Marketを除く)です。上場申請のための書類(新規上場申請のための有価証券報告書、いわゆる「Ⅰの部」)と、各社の公開情報から、上場時点でCTOの肩書を持つ人物がいるかを調べています。
結果、CTOを確認できたのは21社、20.4%でした。自社サービスにAIを組み込んでいる17社に限ると47.1%に上がり、それ以外の86社(15.1%)の約3倍です。市場別ではグロースが29.5%と最も高く、プライムは13.3%、スタンダードは3.7%でした。
市場別:グロース61社中18社(29.5%)/プライム15社中2社(13.3%)/スタンダード27社中1社(3.7%)
AIを組み込む企業:17社中8社(47.1%)、それ以外:86社中13社(15.1%)
CTO21人の役職:取締役7人(33%)、執行役員13人(62%)、役員外1人
創業メンバーのCTO:21人中2人
= CTOを置く会社は少なく、置いても多くは取締役ではない。
上場審査で問われるのは肩書ではなく「分掌」
IPO実務に携わった立場から言えば、CTOという肩書があるかどうかは、上場審査で直接問われる点ではありません。問われるのは、誰がどの業務に責任を持つのかという分掌と、その運用です。
たとえば、システム障害が起きたときに誰が判断し、誰に報告するのか。情報セキュリティの方針を誰が決め、守られているかを誰が確かめるのか。開発の優先順位を誰が決め、その判断が取締役会に上がる仕組みがあるのか。こうした点が規程と実際の運用の両方で説明できれば、肩書が「CTO」でも「開発部長」でも、審査の上での違いは大きくありません。
上場後は、内部統制報告制度のもとで、財務報告に関わる統制を整え、その有効性を経営者が評価して報告することになります。会計システムへのアクセス権の管理や、システム変更の承認・記録といったIT全般統制もその一部です。肩書がなくても、この役割を誰かがきちんと担っていれば足ります。逆に言えば、肩書があっても役割が曖昧なら意味がありません。
なお、新規上場企業は、上場後3年間は内部統制報告書について公認会計士・監査法人の監査を受けなくてよい特例があります(資本金100億円以上または負債総額1,000億円以上の会社を除く)。ただ、免除されるのは監査であって、内部統制報告書の提出や、統制の整備そのものは免除されません。上場直後こそ、技術やシステムの責任の線引きを曖昧にしないことが、数年後の監査対応を軽くすると思います。
AIを中核に据える会社では、話が変わる
一方で、AIを事業の中核に据える会社では話が変わると思います。どのモデルを使うのか、どこまで自社で作るのか、データをどう集めてどう守るのか。技術の判断が、そのまま事業の判断になるからです。AIを組み込む会社でCTOの設置率が約3倍になっているのは、その表れだと読めます。
気になるのは、CTO21人のうち取締役が7人にとどまり、6割が執行役員だった点です。執行役員は業務を執行する立場で、取締役会の議決には加わりません。技術の判断が事業の判断と重なる会社で、技術の責任者が経営の意思決定の場にいない。そういう会社も少なくない、と読むこともできます。
もちろん、取締役にすればよいという単純な話ではありません。大切なのは、技術の論点が取締役会にきちんと届き、経営がそれを理解したうえで判断し、監督できることです。技術の責任者が取締役でないなら、取締役会への定期的な報告の場を決めておく。そうした設計が、AI時代の上場企業には一層求められると感じます。
CTOは「最初からいる」のではなく「迎え入れる」
もう一つ印象的なのは、CTOのうち創業メンバーと確認できたのは21人中2人だったことです。入社から上場までの年数がわかった18人の中央値は7.0年でした。多くは事業が伸びる途中で加わった人です。
これは、技術の責任者が「最初からいる」のではなく、「上場までに迎え入れる」ポジションであることを示していると感じます。上場準備の計画を立てるとき、管理部門は経理・法務・内部監査の人員をまず考えがちです。ですが、技術に責任を持つ人を、いつ・どの立場で迎え、どう権限を渡すのかも、上場準備の工程の一つとして考えておく必要があります。上場を降りてAIに投資する道を選んだ会社の例は「上場では買えなかった「投資の時間」」で取り上げました。
まとめ
- 2025年1月〜2026年9月の東証新規上場103社のうち、上場時点でCTOを確認できたのは21社(20.4%)
- AIを組み込む企業では47.1%と、それ以外(15.1%)の約3倍
- 上場審査で問われるのは肩書より、技術・システムの責任の分掌と運用。上場後はIT全般統制も求められる
- CTOの6割は執行役員。技術の論点を取締役会に届ける仕組みが要る
- CTOの多くは途中から加わった人。技術の責任者を迎え入れることも上場準備の工程の一つ
上場準備で整えるべきなのは、肩書の数ではなく、技術の判断に誰が責任を持ち、それを経営がどう監督するかという仕組みです。AI時代の上場準備では、その設計がこれまで以上に問われるのではないでしょうか。
【出典・参考】
・PR TIMES「新規上場103社の約8割でCTOを確認できず。AIを組み込む企業は設置率47%、それ以外の約3倍――キープレイヤーズ調査」(2026年10月22日)
※本記事は公表情報をもとに一般的な考察を目的として作成したものであり、特定の企業の評価や投資判断を推奨するものではありません。数値は出典記事に基づく参考値です。

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