倒産しない業界の異変、上半期4件

倒産と無縁とされてきた税理士業界に、異変が起きています。東京商工リサーチが2026年7月25日に公表した調査によると、2026年上半期(1-6月)の税理士・会計事務所の倒産は4件。過去、この業界の倒産は半年で1〜2件にとどまり、景気にほとんど相関しない「倒産しない業界」でした。バブル崩壊後の1993年以降で、上半期4件は初めてのことです。

件数そのものは決して多くありません。しかし、その要因を見ると、士業という業態が抱える構造的なリスクが浮かび上がってきます。コーポレート実務の視点から、この記事が示すものを読み解きます。

目次

4件の内訳が示すもの

調査によれば、2026年上半期に倒産した4件は税理士法人2件・会計事務所2件で、形態はいずれも破産でした。その要因は、大きく二つに分かれます。

健康問題(会計事務所2件)
前代表の死去、そして代表の体調悪化。いずれも代表個人の健康が事業継続を直接左右した
コンプライアンス・経営問題(税理士法人2件)
給付金の不正受給指南容疑で当時の代表が逮捕され解散後に破産した事例と、競合環境の中で赤字を計上し継続困難になった事例

特に目を引くのが、健康問題を要因とする2件です。主だった商品仕入もなく、人件費が中心で資金繰りや損益予想も立てやすい──財務的には安定しているはずの業態が、代表の健康という一点で事業継続が困難になる。ここに、士業特有の脆さがあります。

「人」が事業の生命線であるがゆえの脆さ

税理士業界の高齢化を踏まえると、健康問題を理由とした事業の行き詰まりは、今後も続く傾向にあるように思います。

士業の事務所には、一般的な事業会社とは異なる構造があります。税理士資格を代表しか保有していない場合、その方が倒れると、途端に事業継続が困難になる。税務代理や税務書類の作成といった独占業務は、有資格者でなければ行えないからです。仕入もなく資金繰りは安定していても、「人」そのものが事業の生命線であるがゆえに、代表の身に何かあった瞬間に事業が止まってしまう。これは、多くの中小の会計事務所が潜在的に抱えているリスクです。

この構造は、税理士に限った話ではありません。弁護士、司法書士、社会保険労務士といった他の士業や、代表者個人の専門性・信用で成り立っている小規模事業にも、程度の差こそあれ共通します。属人性が高いほど、その一点への依存が経営リスクになります。

前向きな備えとしての事業承継・M&A

事業承継の現場でも、このリスクを見据えて動く先生方がいらっしゃいます。自分に何かあったとき、顧問先に迷惑をかけたくない。長年任せてもらってきた顧客の申告や決算を止めるわけにはいかない。そうした責任感から、元気なうちにM&Aや事務所の統合を検討される方が増えている印象です。

これは決して後ろ向きな選択ではなく、顧客を守るための前向きな備えだと感じています。廃業してしまえば、顧問先は次の税理士を自力で探さなければなりません。決算期をまたぐタイミングであれば、その影響はさらに大きくなります。事務所を他の税理士法人に引き継ぐ形であれば、顧問先へのサービスを途切れさせずに済みます。

備えがない場合
代表に不測の事態 → 業務停止 → 顧問先が宙に浮く → 廃業・破産。顧客は繁忙期に新たな依頼先を探すことになる
備えがある場合
元気なうちに統合・承継先を確保 → 有事でも業務が継続 → 顧問先は同じ水準のサービスを受け続けられる

後継者難による倒産は、士業に限らず日本全体で増加傾向にあります。同じTSRの調査では、2026年上半期の「後継者難」倒産は264件と過去最多で、そのうち代表の健康に関するものが8割を超えたとされています。「元気なうちに動く」ことの重要性は、業種を問わず高まっているといえます。

健康問題以上に速い、コンプライアンス違反の破綻

一方で、記事が指摘するもう一つのリスク──コンプライアンス違反や粉飾決算も見逃せません。むしろ、こちらのほうが破綻のスピードは速いといえます。

調査では、給付金の不正受給を指南したとして代表が逮捕された事例が挙げられています。また、粉飾した決算書を使って融資金をだまし取ったとして詐欺罪に問われた税理士が、懲役3年6カ月の実刑判決を受けた例も紹介されています。国税庁による業務停止処分の対象となったケースもあります。健康問題が徐々に事業を蝕むのに対し、こうした信用失墜は、一度発覚すれば一気に経営を破綻させます。

あわせて、訴訟リスクの高まりも指摘されています。TSRの裁判情報データベースでは、令和に入って以降、税理士が被告となった事件が90件ヒットし、損害賠償請求が中心とのことです。専門家としての判断や助言が、結果責任を問われる場面が増えているということでしょう。専門家であるほど、法令順守と品質管理が経営の生命線になります。

顧問先に、そして自社に置き換えて考える

税理士は、顧問先にとって最も身近な経営のパートナーです。だからこそ、ご自身の事務所の事業承継やリスク管理にも、早めに向き合っていただきたい。顧客に「先生がいなくなったら困る」と言われる存在だからこそ、その先生自身の「もしも」に備えることが、顧客への最大の責任の果たし方なのだと感じています。

そして、これは士業だけの教訓ではありません。属人性の高さは、あらゆる中小企業に共通する経営リスクです。管理部門の視点で、自社に置き換えて点検すべき論点を挙げておきます。

  • 特定の個人に依存している業務はないか:その人が突然離脱したとき、止まってしまう業務。資格、取引先との関係、システムの知識など、属人化しやすい領域を洗い出す
  • 有事の際の業務継続計画があるか:キーパーソンの長期不在を想定した代替体制、引き継ぎ資料、権限の委譲ルール
  • コンプライアンス違反を早期に検知できるか:一人の判断が会社全体の信用を毀損しないよう、牽制と相互チェックが機能しているか
  • 取引先の属人リスクを見ているか:自社が依頼している専門家や、小規模な重要取引先が同じリスクを抱えていないか。相手に何かあれば、自社の業務にも波及します

倒産件数4件という数字の背後には、「安定しているように見える事業ほど、属人リスクは見えにくい」という警鐘があります。財務が健全であることと、事業が継続できることは、必ずしも同じではありません。自社の生命線がどこにあるのかを、あらためて確認しておきたいところです。

【出典・参考】
東京商工リサーチ TSRデータインサイト「倒産と無縁の税理士業界に異変、2026年上半期は4件発生 粉飾は詐欺罪も、コンプラ違反と健康問題がリスクに」(2026年7月25日)
東京商工リサーチ TSRデータインサイト「2026年上半期『後継者難』倒産 過去最多の264件」

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本記事は公表情報をもとに一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事業承継やリスク管理への適用を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、専門家にご相談ください。

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