2026年7月1日、民間企業の障害者法定雇用率が2.5%から2.7%へ引き上げられました。あわせて対象となる事業主の範囲も、常時雇用する労働者40人以上から37.5人以上へと広がっています。これまで対象外だった中小企業にも、新たに雇用義務が生じることになります。
ただ、数字を満たすことと、雇用した方に働き続けてもらうことは別の問題です。現場では、日々マネジメントにあたる管理職が疲弊してしまうケースが少なくありません。その背景には、雇う側にノウハウが不足しているという構造的な問題があると感じています。本記事では、コーポレート実務の視点から、この構造と打ち手を整理します。
まず数字で現在地を確認する
厚生労働省が公表した令和7年の「障害者雇用状況」集計結果(2025年6月1日時点)を見ると、量的な拡大と、達成率の伸び悩みが同時に表れています。
雇用障害者数は着実に増えている一方、達成企業の割合は46.0%で前年と横ばいです。ここに7月からの2.7%への引き上げが加わるため、達成のハードルはさらに上がります。数字を満たすことへの圧力が強まる局面だからこそ、「採用した後」をどう設計するかが問われます。
なぜ管理職が疲弊するのか
制度上の担当者と、日々向き合う人が分かれている
基礎的な知識については、国が仕組みを用意しています。障害者雇用促進法により、障害者を5人以上雇用する事業所ごとに「障害者職業生活相談員」を選任する義務があり、選任には高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が実施する資格認定講習の修了などが要件とされています。選任義務が生じてから3か月以内に、ハローワークへ選任報告書を提出する必要もあります。
講習では、障害別に見た雇用の実際や、職場における人間関係とコミュニケーション、採用・労務管理などが扱われます。つまり、この資格を持つ方は一定の理解を持っているわけです。
問題は、その知識が現場に届いているかです。相談員に選任されるのは人事部門の担当者であることも多く、実際に日々マネジメントする現場の管理職が、必ずしもその知識を共有できているとは限りません。制度上の担当者と、実際に日々向き合う人が分かれてしまうと、現場の負担だけが積み上がっていきます。
最も難しいのは、特性が一人ひとり異なること
そして最も難しいのが、障害の特性が一人ひとり異なるという点です。同じ診断名でも、必要な配慮はまったく違います。心理的な負荷への配慮が必要な方、身体面でのサポートが必要な方、服薬の時間を確保する必要がある方──配慮すべき事項は本当に多様です。
この領域は、マニュアル化しきれません。「◯◯障害の方にはこう対応する」という一般論を用意しても、目の前の一人には当てはまらないことが起こります。結果として、管理職が手探りで対応することになり、正解が分からないまま判断を重ねる状態が続く。これが疲弊につながりやすい構造です。
労務の実務に携わる立場から見ると、ここは管理職個人の能力や熱意の問題ではありません。マニュアル化できない領域を、個人の努力だけで支えさせている設計そのものに無理があります。
鍵になるのは「事前のヒアリング」と「必要な範囲での周知」
心地よく働いてもらうために欠かせないのが、この二つです。
①については、障害者雇用促進法が事業主に求める「合理的配慮の提供義務」の考え方とも一致します。同法では、募集・採用時および採用後において、障害の特性に配慮した必要な措置を講じることが事業主の義務とされており、その内容は事業主と障害者本人との話し合いを踏まえて決めることが前提とされています。会社が一方的に「これが配慮だ」と決めるのではなく、本人との対話から具体化していく。制度の建て付け自体が、ヒアリングを起点にしているわけです。
②の周知には慎重さが必要です。障害に関する情報は、個人情報保護法上の要配慮個人情報にあたり、取扱いには本人の同意が原則として求められます。合理的配慮に関する指針でも、プライバシーへの配慮は重要な留意点とされています。実務としては、次のような整理が有効です。
- 共有する内容と範囲を、本人と一緒に決める:診断名まで伝える必要はほとんどありません。「必要な行動」に翻訳して共有するほうが実用的です。例えば「◯時に離席する場合がある」「口頭より文書での指示が伝わりやすい」といった形です。
- 共有先を明示する:直属の上長のみか、チーム全員か、バックアップ担当者を含むか。誰に伝わるかが分かっていることが、本人の安心につながります。
- 定期的に見直す:体調も業務内容も変わります。入社時に一度聞いて終わりにせず、面談の中で継続的に確認する仕組みにしておきます。
この二つが揃って初めて、雇用が持続可能になります。特に②は、管理職の疲弊を防ぐという意味で決定的です。情報を管理職一人が抱えている状態では、その人が不在の日に対応が止まり、異動すればゼロからやり直しになります。組織として持つべき情報を、個人の頭の中に置いてはいけません。
組織としてノウハウを蓄積するために
管理部門の立場でできることを、いくつか挙げておきます。
- 相談員の知識を現場に還流させる:資格認定講習の内容を、受講者が社内向けに再共有する場を設ける。受講を人事担当者だけに閉じず、配属先の管理職にも受けてもらう選択肢もあります。
- 外部の支援機関を使う:地域障害者職業センターのジョブコーチ支援、就労移行支援事業所や就業・生活支援センターとの連携など、公的な支援の枠組みがあります。管理職に「困ったら自分で調べる」を強いる前に、相談先を組織として用意しておくことが重要です。
- 配慮の記録を組織の資産にする:どんな配慮を検討し、何が有効で何が合わなかったか。個人情報の取扱いに留意しつつ、一般化できる知見として蓄積すれば、次の受け入れが確実に楽になります。
- 管理職の評価に反映させる:定着支援に費やす時間は、業績数値には表れません。評価上まったく考慮されないままでは、熱心に取り組む管理職ほど損をする構造になってしまいます。
まとめ──法定雇用率の達成はゴールではない
障害者雇用は、法定雇用率を満たすことがゴールではなく、その方が働き続けられる環境をどう作るかが本質です。2.7%という数字は、そのための出発点にすぎません。
管理職個人の努力に依存させるのではなく、組織としてノウハウを蓄積し、支援する仕組みを整えること。雇用率の引き上げが話題になる今だからこそ、採用の先にある「定着」の設計に、管理部門としてどう関わるかを考えたいところです。
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【出典・参考】
・厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」(令和7年12月19日公表)
・高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)「障害者職業生活相談員資格認定講習」
・厚生労働省「障害者雇用対策」
※本記事は公表情報をもとに一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の雇用管理や合理的配慮の判断への適用を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、ハローワーク、地域障害者職業センター、または社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
