経験があるからこそ、気づくことができる――ある記事の指摘は、まさにミドル層に当てはまると感じています。新しいテクノロジーはいつも若手に有利だった。けれど生成AIによって、その構造が逆転しつつある。この鋭い指摘を、コーポレート実務の視点から考えてみます。
これまでは「若手が有利」だった
これまで新しいテクノロジーが登場するたびに、上の世代には、既存のスキルを捨てて学び直す「アンラーニング」が必要でした。それに対して、捨てるものを持たない若手は、身軽に新技術に飛び込める。だから、新しい波はいつも若い世代が牽引してきました。インターネットも、PCも、スマートフォンも、そうでした。
ところが、生成AIによって、その構造が逆転しつつある。この指摘は鋭いと思います。
「実装力」がコモディティ化した
記事は、企業の競争優位を「解くべき課題の解像度」×「実装力」の掛け算として捉えます。これまで、実装力――コードを書き、プロダクトを開発する力――は、一部の人しか持っていませんでした。やりたいことが見えていても、形にする技術がなければ前に進めない。だから、新しいことができるのは、その技術を持つ層に限られていました。そして実装力は、新しいスキルへの習熟度で決まるため、アンラーニング不要な若手に有利だったのです。
ところが、生成AIが、この実装力をコモディティ化しました。コードを書く、プロダクトを開発する。かつて専門スキルを要したことが、AIの力で、誰でもある程度は実現できるようになった。その結果、競争優位の源泉が、もう一方の項――「解くべき課題の解像度」へとシフトしているのです。
PoCの「顧客検証」に、経験が効く
記事が挙げるPoC(概念実証)の話は、実務でも本当にその通りだと感じます。PoCには、技術検証と顧客検証の二つがあります。
技術検証は、想定通り動いたかどうかなど、定量的に判断しやすい。一方、顧客検証は難しい。事前の目標値に対して8〜9割の精度が出ても、残りの1〜2割にクリティカルな問題が潜んでいることがある。そして、実際に現場へ落とし込む段階になって、初めて課題が見えてくる。「導入したら、仕事の流れがどう変わるのか」「現場はそれをどう受け入れるのか」――この「PoCの先」を見抜く力は、業界の慣習や現場の力学を知っている人にしか持てないものです。デスクトップリサーチで検索しても、出てこない類の知見です。
コーポレート実務でも、同じことが言える
これは、コーポレート実務の領域でも、まったく同じです。
制度やシステムを導入するとき、考えるべきことがあります。どこで反発が起きるのか。誰が実務を回すのか。どんな例外処理が発生するのか。理想的な制度を設計しても、現場のリソースや組織の力学を踏まえなければ、動きません。そして、これらは検索して出てくる情報ではない。その組織や業界で積み上げた経験からしか、見えないものです。「この制度を入れたら、あの部署が困る」「この運用は、月末の繁忙期には回らない」――そうした肌感覚は、経験の産物です。
ミドルの業界知見が、最も強い武器になる
AIが実装を担う時代だからこそ、「何が本当の課題なのか」を見抜く目が、価値を持ちます。
実装が誰にでもできるようになれば、差がつくのは、その手前の問いの立て方です。どこに、どんな見えない課題があるのか。誰が本当に困っていて、その解決にいくら払う価値があるのか。この解像度は、経験からしか生まれません。ミドル層が長年蓄積してきた業界知見は、これから最も強い武器になるのではないでしょうか。かつては「新しい技術についていけない」ことがハンデでしたが、これからは「その業界の実情を知っている」ことが、代えのきかない強みになる。そういう時代が、静かに始まっているのだと感じています。
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参考・出典
※本記事は、ある記事を読んで感じたことをもとにした筆者個人の見解です。
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