賃上げのニュースが続いています。数字だけを見れば、給与は上がっている。けれど、労務の実務に携わる立場からは、少し違う景色が見えます。物価の上昇に合わせて給与を上げた結果、可処分所得は変わらない――そんな実感です。そして、賃上げができる会社とできない会社の間で、静かに格差が広がっている。賃上げという明るいニュースの裏側を、実務目線で考えてみます。

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給与は上がった。でも「可処分所得」は変わらない

ここ数年、高い賃上げが続いてきました。額面の給与(名目賃金)は、たしかに上がっています。ところが、その上がった分は、物価の上昇にほぼ吸い取られてしまう。結果として、手元に残るお金――可処分所得は、思ったほど増えていない、というのが多くの人の実感ではないでしょうか。

これは、感覚だけの話ではありません。物価上昇分を差し引いた「実質賃金」は、2025年も前年比でマイナスとなり、そのマイナス幅はむしろ拡大しました。名目では上がっているのに、実質では目減りしている。給与明細の数字は増えても、生活が楽になった実感がない。この「上げたのに、変わらない」という感覚こそが、今の賃上げの、もどかしい実態です。

名目賃金(額面)
高い賃上げで上がっている
給与明細の数字は増える
実質賃金(物価を差引後)
物価上昇に吸われマイナス圏
可処分所得の実感は変わらない

賃上げできる会社と、できない会社

そして、もう一つ、見過ごせない問題があります。それは、賃上げができる会社と、できない会社の差です。

大手企業や、体力のある中小企業は、賃上げに対応できます。原資があり、価格転嫁も進められる。けれど、そうでない会社もあります。物価上昇による原価の高騰で、経営が逼迫している中小企業にとっては、賃上げどころではない、というのが正直なところでしょう。仕入れ値は上がる、エネルギーコストも上がる、しかし価格転嫁は思うように進まない。利益が削られる中で、従業員の給与を上げる余力が残らない。「上げたくても、上げられない」会社が、確実に存在するのです。

実際、賃上げを実施しない企業の多くが、その理由に「コストの高騰」と「価格転嫁の難しさ」を挙げています。中小企業は、大企業に比べて資金の余力が小さく、こうした外部環境の悪化に対して脆弱です。賃上げの流れに乗れる会社と、乗れない会社。その分岐点は、体力の差にあります。

格差は、こういうところで生まれる

格差は、こういうところで生まれるのだと思います。

賃上げできる会社の従業員は、少なくとも物価に追いつく形で給与が上がっていく。一方、賃上げできない会社の従業員は、物価が上がる中で給与が据え置かれ、実質的に生活が苦しくなっていく。同じ「働く人」でありながら、勤め先の体力によって、暮らし向きに差がついていく。個人の努力や能力とは別のところで、格差が広がっていくのです。そして、賃上げできない会社は、人材の確保も難しくなり、さらに競争力を失っていく――という悪循環に陥りかねません。賃上げをめぐる体力差は、企業間の格差を、そして働く人の間の格差を、静かに、しかし確実に広げていきます。

賃上げは、それ自体は望ましいことです。けれど、その明るいニュースの陰で、追いつけない会社と、そこで働く人たちがいる。名目賃金の上昇という「平均」の数字だけを見ていると、この足元で広がる格差を見落としてしまいます。労務の現場に立つ者としては、平均の裏にある、こうした「ばらつき」にこそ、目を向けていたいと感じています。

まとめ

賃上げが続く一方で、物価の上昇がそれを相殺し、可処分所得の実感は変わらない。実質賃金はマイナス圏にあり、「上げたのに楽にならない」という状態が続いています。さらに、賃上げに対応できる大手・体力のある企業と、原価高騰で逼迫し賃上げできない中小企業との間で、格差が広がっています。その差は、そこで働く人の暮らし向きの差にもつながっていく。賃上げという平均の数字の裏で、追いつけない会社と人がいる。その現実から目を離さないことが、これからの労務や、社会全体で問われているのだと思います。

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参考・出典

※本記事は報道・公表資料をもとにした筆者個人の見解です。引用した数値の詳細は、出典元をご確認ください。

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