仕事の進め方をめぐるコミュニケーションが、本当に難しい時代になったと感じています。厳しく言えばパワーハラスメント、配慮しすぎればホワイトハラスメント。管理職は、その狭い間で、常にバランスを問われています。人事・労務に携わる立場から、この難しさの正体を考えてみます。
「厳しさ」と「配慮」の、狭い間で
近年、「ホワイトハラスメント」という言葉が聞かれるようになりました。上司が部下に過度に配慮し、成長の機会ややりがいを奪ってしまう状態を指します。パワハラを恐れるあまり、適切な指導やフィードバックを避けたり、難易度の高い仕事を任せなかったりする。良かれと思った「優しさ」が、かえって若手の成長を妨げてしまう、という新しい課題です。
難易度を上げている、複合的な要因
人事・労務の立場から見ると、このコミュニケーションの難易度を上げている要因は、複合的です。
まず、労働時間の制限で、丁寧に育てる時間が取りにくくなりました。次に、リモートワークの広がりで、表情や様子から相手の状況を察することが難しくなった。さらに、価値観の多様化です。何を「配慮」と感じ、何を「負荷」と受け止めるかが、人によって大きく異なります。かつては共有されていた「これくらいは当たり前」という前提が、もはや通用しなくなっているのです。同じ言葉をかけても、受け取り方が一人ひとり違う。だから、正解が見えにくいのです。
「健全な負荷」は、成長の機会になる
ここで大切なのが、「健全な負荷は成長機会になる」という視点です。これは、実務でも実感します。
適度な負荷や、挑戦の機会を奪うことは、一見、優しさに見えて、実は成長の芽を摘んでしまいます。過剰な配慮が早期離職につながる、という懸念も、現実と重なります。実際、若手の退職理由として、「きつすぎる」だけでなく、「物足りない」「成長を実感できない」が増えている、という指摘があります。人は、任されすぎて辞めることもあれば、任されなさすぎて辞めることもある。同世代が厳しい環境でスキルを磨く中、自分だけが物足りない仕事をしていると感じれば、「このままでは市場価値が下がる」という焦りが生まれます。守っているつもりが、かえって不安にさせている。ここに、配慮の難しさがあります。
「一昔前の施策」を、今の価値観で再構築する
こうした課題への対応として、最近感じるのは、一昔前の施策をあらためて見直す動きです。
たとえば、出社回帰。あるいは、風通しの良い社風づくり。対面での何気ない対話や、上司と部下が本音で話せる関係性づくり。こうした古くからある取り組みを、今の価値観に合わせて、より良い形に再構築している会社が増えているように感じます。リモートや効率化で失われたものを、ただ元に戻すのではなく、今の時代に合う形で取り戻す。「新しい施策」ばかりを追うのではなく、「昔からあった良いもの」を今風に磨き直す。そういう揺り戻しが、静かに起きているように思います。
結局は「信頼関係」が本質
結局のところ、コミュニケーションの齟齬を防ぐには、ハラスメントを恐れて距離を取るのではなく、日頃から信頼関係を築いておくことが本質なのだと思います。
関係性ができていれば、多少踏み込んだことを伝えても、受け止めてもらいやすい。同じ「厳しい指摘」でも、信頼のある相手からの言葉は「自分のための助言」として届き、信頼のない相手からの言葉は「攻撃」として受け取られます。指導とハラスメントを分けるのは、言葉の強さそのものより、その土台にある信頼関係なのです。だからこそ、日頃からその土台をどう作るか。それが、これからのマネジメントの、最も大切な鍵になるのではないでしょうか。ハラスメントを恐れて距離を取るほど、かえって信頼は育たず、コミュニケーションは難しくなる。逆説的ですが、踏み込むための土台を、日頃の関係づくりで用意しておくこと。それが、遠回りに見えて、最も確実な備えなのだと思います。
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※本記事は報道・公表資料をもとにした筆者個人の見解です。引用した内容の詳細は、出典元をご確認ください。
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