社会保険料『引き下げ』の本当の論点はどこか

「現役世代の社会保険料負担を引き下げる」という政府の方針が報じられました。労務実務に携わる立場として、この動きには注目しています。ただ、社会保険料の構造を理解すると、負担感の本質がどこにあるのかが見えてきます。料率の数字を追うだけでは見えない部分を、実務の視点から整理してみます。

目次

年金は「打ち止め」、でも医療・介護はじわじわ増える

まず、社会保険料の構造を押さえておきます。給与から引かれる社会保険料の中で、厚生年金保険料は労使合わせて18.3%という料率で、すでに上限に達して固定されています。これ以上は上がりません。段階的に引き上げられてきた厚生年金は、もう「打ち止め」の状態です。

一方、健康保険まわりは事情が異なります。協会けんぽの令和8年度(2026年度)の保険料には、新設された子ども・子育て支援金(0.23%)や、40歳以上が対象の介護保険料率(1.62%)が上乗せされます。そして、この子ども・子育て支援金は、2028年度まで段階的に引き上げられていく予定です(2028年度以降は0.4%程度になる見込み)。

厚生年金
料率 18.3%で固定(上限到達)
→ これ以上は上がらない「打ち止め」
健康保険まわり
子ども・子育て支援金(0.23%・2028年度まで段階的に上昇
介護保険料率(1.62%)などが上乗せ
→ じわじわ増え続ける構造

つまり、年金は打ち止めでも、医療・介護まわりの負担は、じわじわと増え続ける構造になっている。「社会保険料の引き下げ」という言葉の裏側で、実際には増えていく項目があるのです。

現場で聞く「これ、間違いじゃないか」という声

実務の現場では、従業員から「こんなに控除されるのは、何かの間違いじゃないか」と聞かれることが、実際にあります。給与明細を見て、手取りの少なさに驚く。その気持ちは、よく分かります。

負担は増えていくのに、受けられるサービスが目に見えて増えるわけではない。この「払っているのに、実感がない」という感覚こそが、現役世代の不満の核心だと感じています。保険料は天引きで、気づかないうちに引かれていく。だからこそ、増えていることへの納得感が得られにくいのです。

「引き下げ」の財源はどこから来るのか

政府の骨太方針案では、「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていく」という目標が掲げられています。方向性としては、現役世代の負担軽減は歓迎すべきものです。

ただ、ここで冷静に考えたいのは、財源の問題です。給付の水準を維持したまま料率を下げるには、給付の見直し(支出を減らす)か、公費=税金の追加投入(別の財源で穴埋めする)か、どちらかが必要になります。もし後者、つまり税で穴埋めするなら、それは負担が「保険料から税へ移るだけ」という面もあります。社会保険料の欄の数字が下がっても、別のところで税負担が増えれば、トータルの負担は変わらない、ということになりかねません。

本質は「世代間の負担構造」そのもの

結局のところ、この問題の本質は、料率の数字ではなく、世代間の負担構造そのものにあります。

現在の社会保険は、高齢者の医療費を、現役世代が支える仕組みになっています。この構造をどう設計し直すのか。そこに踏み込まないまま、料率の数字だけを下げても、負担は形を変えてどこかに残ります。だからこそ、「料率を下げる」という掛け声だけでなく、給付と負担の全体像をセットで示せるかどうか。それが、この方針の本気度を測る分かれ目になると、私は考えています。

労務担当として給与明細の数字を扱う立場からすると、従業員が感じる「負担感」は、単なる料率の問題ではありません。納得感のある説明ができる制度設計になっているか。現役世代が「支えている実感」を持てる仕組みになっているか。数字の上げ下げの先にある、その設計思想こそが問われていると感じています。

参考・出典

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本記事は報道・公表されている資料をもとにした筆者個人の見解です。保険料率や制度の詳細は、全国健康保険協会・こども家庭庁等の公式情報をご確認ください。

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