マイナ保険証への移行に伴う暫定措置が、2026年7月31日で終了します。8月1日以降、期限切れとなった従来の健康保険証だけを医療機関に持参した場合、いったん医療費の全額(10割)を支払い、後日払い戻しを受ける「償還払い」の扱いとなります。厚生労働省はこの措置をさらに延長しない方針を示しており、制度移行はいよいよ最終局面を迎えます。
本記事では、報道と厚生労働省の公表資料をもとに制度の現在地を整理したうえで、企業の労務・総務担当者が押さえておくべき実務対応と、マイナンバー活用拡大をめぐる論点を、コーポレート実務の視点で解説します。
制度の現在地──数字で見るマイナ保険証
まず、公表されている数字を確認します。
- 利用登録者数:約9,450万人(2026年5月末時点・厚生労働省)。マイナンバーカード保有者の9割超が保険証利用の登録を済ませています。
- レセプトベースの利用率:68.15%(2026年4月時点)。受診時に実際にマイナ保険証を使った人の割合で、着実に上昇しています。
- スマートフォンへの搭載件数:約800万件。2025年9月に始まったスマホ搭載は、医療機関等での利用も累計500万件を超えました。
登録者数だけを見れば普及は進んでいます。一方で、実際の利用率は約7割にとどまり、スマホ搭載に至っては登録者全体の1割にも届いていません。「持っている」と「使いこなしている」の間には、まだ大きな開きがあるのが実情です。
8月から何が変わるのか
従来の保険証は2024年12月に新規発行が停止され、経過措置を経て2025年12月1日に法的な有効期限が満了しました。ただし、期限切れの保険証を誤って持参した場合でも、医療機関がオンライン資格確認システムで保険資格を確認できれば通常の窓口負担(1〜3割)で受診できる暫定措置が続いてきました。この暫定措置が7月末で終了します。
8月以降の受診手段は、次の3つに整理されます。
労務・総務担当者が押さえるべき実務ポイント
労務の実務に携わる立場から見ると、この移行で特に注意すべきは「医療機関の受診機会が少ない現役世代」です。高齢者は受診頻度が高く窓口で移行を促される機会がありますが、健康な現役世代ほど、従来の保険証を財布に入れたまま何年も更新の機会がなく、8月以降に初めて「使えない」と知るリスクがあります。企業としては、次の点を従業員に周知しておくことが望ましいでしょう。
- 手元の確認を促す:マイナ保険証の利用登録を済ませているか、未登録なら資格確認書が手元にあるか。本人だけでなく被扶養者(家族)の分も確認が必要です。
- 電子証明書の有効期限に注意:マイナンバーカード本体は発行から10回目の誕生日、ICチップ内の電子証明書は5回目の誕生日が期限です。2020年9月〜2021年末のポイント還元第1弾では約2,500万人がカードを取得しており、今年は電子証明書の期限切れが集中すると見込まれています。電子証明書が失効するとマイナ保険証としても使えなくなるため、更新案内を放置しないよう注意喚起が必要です。
- 「資格確認書」と「資格情報のお知らせ」の取り違えに注意:名称が似ていますが、単体で受診に使えるのは資格確認書のみです。資格情報のお知らせは、マイナ保険証が読み取れない場合などにカードと併せて提示する補助的な書類です。
- 入退社時の手続きへの影響:資格取得・喪失のタイミングでは、マイナ保険証への資格情報の反映にタイムラグが生じることがあります。入社直後の従業員が受診する可能性がある場合の案内方法も、あらかじめ整理しておくと安心です。
論点:拡大のスピードに、理解が追いついているか
実務上、マイナ保険証そのものの利便性は高いと感じます。医療機関での手続きはスムーズになり、過去の薬剤情報や特定健診の情報が連携されるメリットは、実際に使ってみると実感できるものです。
ただ、これは保険証だけの話ではなく、マイナンバー全体の活用に関わる論点だと考えています。当初は税・社会保障・災害対策という限定的な用途で始まったマイナンバーが、保険証、そしてスマートフォン搭載へと、活用範囲を急速に広げています。利便性の向上は歓迎すべきことですが、拡大のスピードに国民の理解が追いついているかは、慎重に見る必要があります。
必要なのは、二つの軸での理解と周知ではないでしょうか。
この両方が揃わないまま制度だけが先行すると、便利さの裏で不安や混乱、そして「使えない人の取り残し」が生じます。実際、暫定措置の終了は医療機関やSNSを通じて周知される予定ですが、情報が届きにくい層が一定数いることは国も認めているところです。手元に何もないまま受診し、一時的に10割負担を求められる──そうしたケースを最小限に抑えられるかは、この夏の周知にかかっています。
まとめ──推進と周知は「車の両輪」
利便性の推進と、リスク・リテラシーの周知は、車の両輪です。制度を前に進めるのと同じ熱量で、国民が安心して使える土台づくりにも力を入れる──その視点が、これからのマイナンバー活用拡大には欠かせないと感じています。
企業の管理部門としては、まず自社の従業員とその家族が8月以降も安心して受診できる状態をつくることが最初の一歩です。社内報やイントラネットでの周知、入退社手続き時の案内文面の見直しなど、できることから着手しておきましょう。
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【出典・参考】
・日本経済新聞「マイナ保険証9443万人、スマホ搭載は800万人 「紙」は7月末終了」
※本記事は公表情報をもとに一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の手続きや個別事案への適用を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、厚生労働省・加入する保険者の最新情報をご確認いただくか、専門家にご相談ください。
