円安の日本は買われる。でも、人は集まらない

円安が続くということは、海外から見れば、日本全体が「バーゲンセール」状態にあるということです。ある記事によると、中国人富裕層の関心は、かつての炊飯器のような家電から、今や日本の不動産へと移り、在留90万人という存在を背景に、日本の土地が買われているといいます。これは、円安のもたらす一つの帰結だと感じています。ただ、コーポレート実務の視点で本当に気になるのは、その先にある「労働市場」への影響です。

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「爆買い」の主役は、炊飯器から不動産へ

かつて話題になった中国人観光客の「爆買い」は、家電量販店で炊飯器や温水洗浄便座を買い込む姿が象徴でした。それが今、姿を変えています。買われているのは、モノではなく、日本の不動産。円安によって、海外の富裕層から見た日本の資産は、実質的な値引き状態にあります。物も、土地も、そして賃金も、相対的に安い。

買う側にとっては、これほど魅力的な市場はありません。けれど、日本で働き、暮らす側からすると、複雑な思いがあります。自分たちの街の土地が、給与では手が届かない価格で、海外マネーに買われていく。その光景の根っこにあるのが、通貨の安さです。

円安が労働市場に与える、二つの影響

コーポレート実務の視点で特に気になるのは、労働市場への影響です。円安は、人の流れに、二つの方向から効いてきます。

ひとつは、日本人が外に出るハードルです。円安は、日本人が海外に出て働いたり、学んだりするハードルを上げます。同じ努力をしても、円で得た収入の海外での価値が目減りするからです。留学の費用は膨らみ、海外経験の敷居は高くなる。

もうひとつは、外国人労働者にとっての日本の魅力です。これまで日本を選んで働きに来ていた人たちにとっても、円で受け取る賃金の魅力は薄れています。同じ働くなら、より高い賃金を、より強い通貨で得られる国へ――そう考えて、日本以外を選ぶ流れが生まれる。人手不足が深刻化する中で、これは無視できない構造です。

「モノは買われる、人は集まらない」という非対称性

資産としての日本
物・土地・企業が割安に見える
海外マネーに買われる
バーゲンセール状態
働く場所としての日本
円建て賃金の魅力が下がる
人が集まりにくくなる
人材獲得競争で不利に

つまり、円安は「モノを買ってもらえる」一方で、「人が集まりにくくなる」という側面を併せ持っています。資産としての日本は買われても、働く場所としての日本の、相対的な魅力は下がっていく。この非対称性が、悪循環につながりかねないと感じています。

人が集まらなければ、人手不足はさらに深刻になり、企業の成長は制約され、賃金を上げる原資も生まれにくくなる。賃金が上がらなければ、ますます人に選ばれなくなる。通貨の安さで得られる目先の恩恵の裏で、こうした循環が静かに進んでいくとしたら、それは長期的に大きな代償です。

「働く場所として選ばれる国」であり続けるために

不動産が買われること自体を、一概に悪いとは言えません。海外からの投資は、経済の活力にもなり得ます。けれど、通貨の安さに頼った経済は、長期的には、人材という最も重要な資源を失うリスクをはらんでいます。

だからこそ、賃金水準を上げ、働く場所として選ばれる国であり続けること。円安の恩恵を語る前に、その視点を忘れてはいけないと感じています。企業の現場でも、同じことが言えます。人手不足の時代に人を惹きつけるのは、結局のところ、賃金と働く環境です。「安いから買われる」のではなく、「魅力があるから選ばれる」。国も、企業も、目指すべき姿は同じなのだと思います。

参考・出典

※本記事は報道をもとにした筆者個人の見解です。引用した内容の詳細は、出典元をご確認ください。

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