退職が原因の倒産が5年連続で増加し、2026年は1〜7月で83件と、過去最多ペースだといいます。2026年8月にITmediaビジネスオンラインが報じた、帝国データバンクの調査結果です。人手不足がもはや確定した未来である以上、企業に残された打ち手は、二つしかありません。採用力を上げるか、業務を効率化するか。この記事は、その両方に失敗した企業から倒れていく現実を、突きつけています。労務の実務に携わる立場から、この構造を読み解きます。
数字で見る「退職型倒産」の実態
まず、調査結果を確認します。従業員の退職が直接または間接的に要因となった「従業員退職型」の倒産が、増え続けています。
業種別に見ると、サービス業が22件(26.5%)で最多。新入社員が施設などに定着しない業界で目立つといいます。建設業も20件と、1〜7月として初めて20件台に達しました。運輸・通信業は、賃上げや長時間運転などを中心に、前年同期から増加しています。人手不足という構造的な問題が、業種を問わず、倒産という最悪の結末を生み始めているのです。
記事が挙げる具体例も示唆的です。受注は堅調だったにもかかわらず、コスト高で採算が悪化し、ドライバーの賃上げを進められずに退職が相次いだ運送会社。中心メンバーの独立退職で人手不足に陥り、業績が悪化して事業継続を断念した飲食店。いずれも、人が抜けたことが、直接引き金になっています。
打ち手は二つしかない
人手不足が確定した未来である以上、企業に残された打ち手は、突き詰めれば二つしかありません。採用力を上げるか、業務を効率化するか。この両方に失敗した企業から、倒れていきます。
順に、この二つを掘り下げます。
採用力=「魅力的な会社になる」こと
まず、採用力を上げること。これは、突き詰めれば「魅力的な会社になる」ということに尽きます。
記事にあるように、賃上げの原資を確保できないまま、中核人材が流出するケースが目立っています。賃金は、会社の魅力の重要な一要素です。コスト高のなかで賃上げ原資を捻出できるかどうかは、死活問題になっています。しかし、魅力は賃金だけではありません。
これら総合的な魅力を高められない会社から、人は静かに去っていく。
働きやすさ、成長機会、風通しの良さ、経営への信頼。こうした総合的な魅力を高められない会社から、人は静かに去っていきます。賃金を上げられないなら、他の魅力で補う努力が要る。逆に言えば、賃金以外の魅力を磨くことは、原資が限られる中小企業にとって、現実的な採用力向上の道でもあります。
効率化の第一歩は「業務の文書化」
次に、業務を効率化すること。その第一歩は、業務の文書化だと考えています。
記事では、建設業やサービス業で「ベテランの独立退職によって人員不足に陥った」という事例が出ています。これはまさに、業務が特定の個人に紐づき、文書化されていなかったことのリスクです。その人の頭の中にしかノウハウがなく、手順が共有されていない。だから、誰か一人が抜けたら、業務が回らなくなる。
この属人化を解消し、業務を標準化・文書化しておくことが、人材流出への最大の防波堤になります。文書化は、単なる効率化の手段にとどまりません。一人が抜けても事業が続く、という組織の耐久力そのものを高めます。そして、標準化された業務は、その後の自動化やツール導入の土台にもなります。効率化への道は、まず「業務を書き出す」ことから始まるのです。この論点は、以前取り上げた中小企業のDX事例とも通じるものがあります。
「昔ながらのやり方」は、もう通じない
そして、痛感するのは、いずれの取り組みも、昔ながらのやり方では物理的に通じなくなってきている、ということです。
・「仕事は見て盗め、マニュアルなど不要」
——人手不足と価値観の変化のなかで、こうした前提は完全に崩れ去った。
「給料は安いが我慢して働くのが当たり前」「仕事は見て盗め、マニュアルなど不要」。かつて通用した、こうした前提は、人手不足と価値観の変化のなかで、完全に崩れ去りました。我慢を強いる会社からは人が去り、マニュアルのない属人的な職場は、一人の退職で崩れます。昔のやり方に固執することは、もはやリスクでしかありません。採用力の向上も、文書化による効率化も、この古い前提を捨てることから始まります。
まとめ
- 退職型倒産は5年連続増、2026年1〜7月で83件と過去最多ペース。人手不足が業種を問わず倒産の引き金になっている
- 打ち手は二つ。採用力を上げるか、業務を効率化するか。両方に失敗した企業から倒れていく
- 採用力の向上は「魅力的な会社になる」こと。賃金だけでなく、働きやすさ・成長機会・風通し・経営への信頼という総合的な魅力が問われる
- 効率化の第一歩は業務の文書化。属人化の解消が人材流出への最大の防波堤になる。「見て盗め」「我慢が当たり前」という古い前提は、もう通じない
人が減ることを嘆いても、状況は変わりません。魅力ある会社への転換と、文書化による効率化。この二つに本気で取り組めるかどうかが、これからの企業の生死を分けるのだと、この記事は教えてくれます。どちらも一朝一夕には成りませんが、着手が遅れるほど、選択肢は狭まっていきます。人手不足を嘆く側に回るのか、それとも備える側に回るのか。その分岐点に、多くの企業が立っています。
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・ITmediaビジネスオンライン「『退職』が原因の倒産、5年連続で増加 賃上げできず人材流出する企業を直撃」(2026年8月12日、帝国データバンク調べ)
※本記事は公表情報をもとに一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の経営判断や人事施策の結果を保証するものではありません。数値は出典記事に基づく参考値です。

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