フィットネスジムの倒産が、過去最多ペースで増えているといいます。2026年8月にITmediaビジネスオンラインが報じた、帝国データバンクの調査結果です。健康ブームでニーズは高まっているはずなのに、なぜ経営破綻が相次ぐのか。この一件は、フィットネス業界にとどまらず、あらゆる新規事業に共通する教訓を含んでいます。コーポレートの視点で読み解きます。
数字で見る、フィットネスジムの倒産
健康ブームを背景に、フィットネス市場にはさまざまな業態が登場しました。24時間営業・無人型の「コンビニジム」や、パーソナルジムなど、利用者の選択肢は広がっています。ところがその一方で、倒産は増加している。特に、参入しやすいパーソナルジムと、設立10年未満の比較的新しい事業者が、倒れやすい傾向にあります。この「参入しやすさ」と「倒れやすさ」の関係にこそ、この問題の本質があります。
構造的な弱点──集客モデルの持続性
とりわけ構造的に厳しいと感じるのは、集客モデルそのものの持続性です。新規顧客を集める工夫はあっても、それが継続的な収益に結びつかない、という問題です。
・「2〜3カ月の短期集中プラン」は、その期間が終われば顧客が離れていく
割引や短期契約で入口を作っても、継続的な収益にはつながりにくい。
「入会金無料」といったキャンペーンで一時的に会員を集めても、通常料金に戻ると解約が増える。「2〜3カ月の短期集中プラン」は、その期間が終われば顧客が離れていく。つまり、割引や短期契約で入口を作っても、継続的な収益にはつながりにくいのです。
新規顧客を「集める」ことはできても、「囲い込み続ける」ノウハウがなければ、あっという間に資金が尽きてしまう。加えて、人件費の上昇やエネルギー価格の高騰による光熱費増も、経営を圧迫します。集客の入口だけを作って、定着の仕組みを持たない事業は、この構造のなかで急速に体力を失っていきます。
参入障壁の低い市場で生き残る、二つの条件
コーポレートの視点で言えば、こうした参入障壁の低い市場で新規参入して生き残るには、二つの条件が要ると考えています。
一つは、既存事業で安定した収益力を持ち、多角化の一環として展開できること。単体の収支が厳しくても、本業で支えられる体力があれば、持ちこたえられます。新規事業を、それ単体の採算だけで見るのではなく、企業全体のポートフォリオのなかで位置づけられるかどうか。ここに、体力の差が出ます。
もう一つは、割引に頼らず、継続的に新規顧客を獲得し、定着させる仕組みを持っていること。たとえば、24時間営業のコンビニジムのように、立地とオペレーションで安定した集客を実現できるモデルには、確かな強さがあります。もちろん、コンビニジムも商圏の競争激化という課題は抱えていますが、割引頼みの一過性の集客とは、収益の安定性が異なります。「仕組みで集め、仕組みで定着させる」ことができるかどうかが、明暗を分けます。
「開業できること」と「続けられること」の溝
この倒産増加が示す最大の教訓は、「開業できること」と「事業を続けられること」の間には、深い溝があるということです。
パーソナルジムのように、少ないスペースと最低限の設備で開業でき、参入しやすい事業ほど、この溝は深くなります。始めるのは簡単でも、続けるのは難しい。参入のハードルが低い市場ほど、多くのプレイヤーが集まり、価格競争に陥り、体力のない事業者から脱落していくからです。
参入のハードルが低い市場ほど、収益基盤と顧客維持のノウハウという、地味だが本質的な力が問われます。派手な集客キャンペーンや目新しいコンセプトは、開業のときには武器になっても、事業を継続する力にはなりません。本当に必要なのは、安定して収益を生み続ける基盤と、顧客をつなぎとめ続ける仕組みです。この地味な力こそが、事業の生死を分けます。
まとめ
- フィットネスジムの倒産が過去最多ペース。特にパーソナルジムと設立10年未満の新しい事業者が倒れやすい
- 構造的な弱点は集客モデルの持続性。入会金無料や短期集中プランは入口を作れても、継続的な収益につながりにくい
- 参入障壁の低い市場で生き残る条件は二つ。本業で支える体力(多角化)と、割引に頼らず定着させる仕組み
- 「開業できること」と「続けられること」の間には深い溝がある。参入が容易な市場ほど、収益基盤と顧客維持という地味な力が問われる
フィットネスジムの倒産増加は、健康ブームという追い風のなかで起きているだけに、示唆に富みます。市場が伸びていることと、その市場で個々の事業者が生き残れることは、別の話なのです。新規事業を考えるとき、私たちはつい「始められるか」「面白いか」に目を向けがちですが、本当に問うべきは「続けられるか」です。収益基盤と顧客維持の仕組み。この地味で本質的な問いに答えられる事業だけが、生き残っていく。フィットネス業界の現実は、あらゆる事業に通じる教訓を、静かに示しています。
【出典・参考】
・ITmediaビジネスオンライン「フィットネスジムの倒産が過去最多ペース 健康ブームの裏で何が起きている?」(2026年8月14日、帝国データバンク調べ)
※本記事は公表情報をもとに一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事業や投資判断を評価・推奨するものではありません。数値は出典記事に基づく参考値です。
