複雑さを「価値」に変えるDXの設計

複雑な注文を、そのまましっかりと売上につなげているところに、この企業の巧みさを感じます。2026年8月にBusiness Journalが報じた、ゴンチャ(Gong cha)の既存店52カ月連続増収を分析した記事です。タピオカブームが去った後も成長を続けるその裏側には、DX(デジタル化)投資の本質を突いた設計思想がありました。コーポレートの視点で読み解きます。

目次

「カスタマイズの複雑さ」という弱点

お茶のドリンクは、茶葉の種類、甘さ、氷の量、トッピングと、選択肢が非常に多いのが特徴です。この「カスタマイズの複雑さ」は、本来、諸刃の剣でした。

選べる楽しさがある一方で、対面のレジ注文だと、これが弱点になります。注文に時間がかかり、回転率を落とす。さらに、「自分が注文に手間取って、後ろの客を待たせてしまう」という心理的ハードルにもなります。この心理が働くと、客は無難な注文で済ませてしまい、せっかくのカスタマイズの魅力が活かせません。複雑さが、そのまま機会損失につながっていたわけです。

モバイルオーダーで、弱点を強みに変える

ところがゴンチャは、LINEを活用したモバイルオーダーを導入することで、この弱点を強みに変えています。同じ「複雑さ」を、まったく逆の結果に転換したのです。

対面レジ注文(弱点だった)
急かされて無難な注文に。回転率も落ち、後ろの客を待たせる心理的ハードルが、カスタマイズを妨げる
モバイルオーダー(強みに転換)
画面上でじっくり選べる。「自分だけの一杯」を作る楽しさに。追加や増量への抵抗も下がり、客単価が上がる

スマホの画面上でじっくり選べるようにすることで、急かされずに「自分だけの一杯」を作る楽しさに転換する。そして、トッピングやサイズアップへの心理的抵抗を下げ、客単価の向上につなげている。レジ前では遠慮していた「ちょっと追加」が、画面上なら気軽にできる。同じ複雑さでも、設計次第でこれほど結果が変わるのかと、感心させられます。実際、この仕組みは2022年から段階的に展開され、52カ月連続増収という数字を支える一因になっています。

同じ「複雑な注文」でも、UI次第で正反対に

これに関連して、以前、松屋の券売機の注文が難しすぎる、というネタを目にしたことがあります。牛めしにトッピング、定食の選択、ライスの量、味噌汁の変更と、条件分岐が多くて迷ってしまう、という話でした。

これは、ゴンチャと対照的な例として、示唆に富みます。まさに同じ「複雑な注文」でも、UI(ユーザーインターフェース)の出来次第で、顧客にとって楽しい体験にもなれば、ストレスにもなり得る、ということです。選択肢の多さそのものが問題なのではありません。それをどう見せ、どう選ばせるか。その設計こそが、体験の質を決めるのです。

同じ「複雑な注文」でも――
UIが悪ければ:迷い、ストレスになり、無難な選択に逃げる
UIが良ければ:選ぶこと自体が楽しくなり、単価が上がる
分けるのは、選択肢の数ではなく、設計思想。

タッチパネルやモバイルオーダーひとつをとっても、UIが果たす役割は本当に大きいと感じます。単なる省人化ツールとして導入するのか、それとも顧客が選ぶこと自体を楽しめる接客インターフェースとして設計するのか。その思想の差が、そのまま客単価や再来店率に表れます。ゴンチャのモバイルオーダーは、まさに後者、「選ぶ楽しさを演出する接客の道具」として設計されているのです。

DX投資の本質を突いた事例

これはDX投資の本質を突いた事例だと思います。多くの企業が陥りがちな「DX=効率化・省人化」という発想を、一歩超えているからです。

よくあるDX(効率化止まり)
人手を減らす、作業を速くする。コスト削減が目的。導入して終わり
本質を突いたDX(収益設計まで)
顧客体験をどう高め、どう収益につなげるかまで設計。効率化は結果としてついてくる

効率化のためだけにシステムを入れるのではなく、顧客体験をどう高め、どう収益につなげるかまで設計しきれるかどうか。ここに、成否の分かれ目があります。ゴンチャのモバイルオーダーも、注文データがキッチンへ自動連携されてオーダーミスやレジ負荷が下がるという「効率化」の側面は当然あります。しかし、それにとどまらず、客単価の向上と再来店の促進という「収益」にまで踏み込んで設計されている。この二段構えが、DXを単なるコスト削減で終わらせない鍵です。ゴンチャの52カ月連続増収という数字は、その設計思想の勝利なのだと感じます。

「複雑さを排除する」のではなく「価値に変える」

この事例から得られる最大の教訓は、複雑さへの向き合い方です。複雑さを排除するのではなく、価値に変える。この発想の転換にあります。

効率化の文脈では、複雑なものは「単純化すべきコスト」と捉えられがちです。しかしゴンチャは、カスタマイズの複雑さを、単純化するのではなく、むしろ「パーソナライズの楽しさ」という価値へと昇華させました。複雑さは、必ずしも敵ではない。見せ方と選ばせ方を設計すれば、それは他社が真似しにくい、独自の魅力になり得るのです。

これは、飲食業に限った話ではありません。多くの選択肢やオプションを持つ、あらゆるカスタマイズ型のサービスに応用できる、示唆に富んだ発想です。自社の商品やサービスの「複雑さ」を、顧客を遠ざける弱点として単純化してしまっていないか。それを、選ぶ楽しさという価値に変える設計はできないか。ゴンチャの事例は、そんな問いを投げかけてくれます。

まとめ

  • お茶ドリンクの「カスタマイズの複雑さ」は、対面注文では回転率低下や心理的ハードルという弱点だった
  • ゴンチャはLINEモバイルオーダーで、この弱点を「自分だけの一杯を作る楽しさ」に転換し、客単価向上につなげた
  • 同じ複雑な注文でも、UIの設計次第で、楽しい体験にもストレスにもなる。分けるのは選択肢の数ではなく設計思想
  • DX投資の本質は、効率化だけでなく、顧客体験と収益まで設計しきること。複雑さは排除するのではなく、価値に変える

DXやシステム投資というと、つい「どれだけ効率化できるか」「どれだけ人手を減らせるか」に目が向きがちです。しかし、ゴンチャの事例が教えてくれるのは、その先にある「顧客体験と収益の設計」こそが、本当の勝負どころだということです。複雑さを排除するのではなく、価値に変える。この発想を持てるかどうかが、DX投資を、単なるコストから、成長の原動力へと変えるのだと感じます。自社のシステムやツールは、効率化で止まっていないか。あらためて問い直してみる価値がありそうです。

【出典・参考】
Business Journal「タピオカブーム終焉の裏で、なぜゴンチャだけが既存店52カ月増収を達成できたのか」(2026年8月17日、文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)

本記事は公表情報をもとに一般的な考察を目的として作成したものであり、特定の企業の評価や投資判断を推奨するものではありません。数値は出典記事に基づく参考値です。

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