給与は上がったのか

入社した時点の経済情勢によって、その後の収入が左右されてしまう。これは残念なことだと感じています。就職氷河期世代が象徴的ですが、本人の能力や努力とは関係のないタイミングの問題で、生涯賃金に大きな差が生まれてしまう。これは個人の責任に帰せられるものではありません。

「働き盛りのサラリーマンの給与は上がったのか」という問いをめぐる記事を読み、企業規模別のデータを改めて整理してみました。公的統計をもとに表にまとめています。そこから見えてくるのは、平均値だけでは捉えきれない、賃金問題の構造です。

目次

企業規模別の年収を、表で整理する

まず、厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和6年)をもとに、50代(50〜54歳)の企業規模別の年収水準を整理します。数字は報道等で紹介されている水準です。

企業規模(50〜54歳) 平均年収の目安 大企業との差
大企業 約581万円
中企業 約513万円 ▲約68万円
小企業 約437万円 ▲約144万円

大企業と小企業では、50代で年間140万円を超える差があります。しかも、この差は年齢を重ねるほど拡大していく傾向があります。若い頃はさほど大きくなかった規模による格差が、40代・50代と進むにつれて開いていく。ここに、大手企業の人事制度の特徴が表れています。

大手はなぜ、年次とともに差が開くのか

大手企業に入れた人については、状況はやや異なります。大手は人事制度や賃金テーブルがしっかり整備されているため、入社時の初任給に多少の不利があっても、長期的には制度に沿って昇給し、キャッチアップできる仕組みがあります。

裏を返せば、大手の人事制度は、年次とともに着実に処遇を上げていく設計になっているということです。年功的な昇給カーブ、管理職ポストの多さ、体系的な等級制度──これらが揃っているため、勤続を重ねるほど賃金が積み上がっていきます。企業規模別の格差が年齢とともに拡大するのは、この「上がり続ける仕組み」を持つ企業と、持たない企業の差が、時間とともに顕在化していくからです。

大手企業
整備された賃金テーブルと昇給ルール。入社時の不利を、年次を重ねる中で制度的にキャッチアップできる。若い頃の差が縮まっていく
多くの中小企業
昇給のペースが明確でなく、年収が早い段階で頭打ちになるケースも少なくない。入社時の水準からの伸びが緩やかになりやすい

冷静に見るべきは「恩恵を受けられる人の数」

ここで冷静に見なければならないのが、その恩恵を受けられる人がどれだけいるか、です。

99.7%
日本の企業数に占める中小企業の割合。大企業はわずか0.3%(中小企業庁)
約7割
中小企業で働く従業者の割合。多くの働き手は中小企業に属している

日本の企業の99.7%は中小企業で、大企業はわずか0.3%に過ぎません。従業者ベースで見ても、約7割は中小企業で働いています。つまり、しっかりした人事制度で長期的にキャッチアップできる環境にいる人は、日本全体で見れば多数派ではないのです。

もちろん、大企業には従業員数の多い会社が集中するため、「大企業で働く人」は企業数の割合ほど少なくはありません。給与所得者ベースでは、従業員1,000人以上の規模で働く人が約3割を占めるという統計もあります。それでも、裏を返せば残りの約7割は、それより小さな規模で働いている。整備された賃金テーブルの恩恵を、年次とともに確実に受けられる人が限られていることに変わりはありません。

「平均は上がった」の落とし穴

多くの働き手が属する中小企業では、昇給のペースが明確でなく、年収が早い段階で頭打ちになるケースも少なくありません。この構造を踏まえると、「働き盛りの給与は上がったのか」という問いへの答えは、見る角度によって変わってきます。

平均値が見えにくくするもの
統計上の平均は、水準の高い層に引き上げられる。
「平均は上がった」という事実と、「自分の実感としては上がっていない」という感覚は、どちらも同時に正しいことがある。
平均の上昇が、必ずしも多数派の実感と一致するとは限らない。

統計上の平均は上がっていても、その実感を得られている人は限られている。日本全体で余裕資金を持てる人が少ないのは、この構造に根本的な原因があるのだと感じています。平均という一つの数字は、その内側にある分布のばらつきを覆い隠してしまうことがあります。

まとめ──平均の内訳を見る視点を持つ

給与を語るとき、平均値だけでなく、その恩恵がどの層にどれだけ行き渡っているのか。この視点を持つことが、日本の賃金問題の本質を見誤らないために重要ではないでしょうか。

この論点は、賃金を「支払う側」である企業の経営にも跳ね返ってきます。多くの中小企業が、明確な賃金テーブルや昇給の仕組みを持てないまま、人材確保の競争にさらされています。人が採りにくく、定着も難しい時代に、規模の小さい企業がどう処遇を設計し、限られた原資の中で従業員の納得感を保つか。これは、賃上げの原資をどう捻出するかという問題と表裏一体です。平均値の裏側にある構造を理解することは、社会全体の課題であると同時に、一社一社の人事・処遇設計の課題でもあります。

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【出典・参考】
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」(企業規模別・年齢階級別賃金)
中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果」
国税庁「民間給与実態統計調査」

本記事は公表情報をもとに一般的な情報提供を目的として作成したものです。年収の数値は調査・集計方法により異なり、賞与の取扱い等によっても変動します。掲載の数字は目安としてご参照ください。個別の賃金制度の設計にあたっては、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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