IPO準備における管理部門構築の連載、第4回のテーマは「内部監査」です。これまで経理、人事・労務、総務と見てきましたが、内部監査は、それらとは役割の性質が大きく異なります。他の部門が「業務を回す」のに対し、内部監査は「その業務が正しく回っているかをチェックする」機能だからです。地味に聞こえるかもしれませんが、IPOにおいても、上場後においても、会社のガバナンスを守る極めて重要な職務です。コーポレート実務の視点で、その本質と、IPO準備ならではの難しさを掘り下げます。
内部監査とは何か──ガバナンスを守る機能
内部監査とは、社内の運用が、ルールどおりに行われているかをチェックする仕事です。規程やマニュアルで定められた手順が、実際に守られているか。定めたルールと、現場の実態にズレがないか。それを独立した立場から検証します。
一見、地味な仕事に思えるかもしれません。しかし、この機能があるからこそ、会社のガバナンスは保たれます。ルールを作っても、それが守られているかを誰もチェックしなければ、ルールは形骸化します。内部監査は、その形骸化を防ぎ、組織が健全に運営されていることを担保する、ガバナンスの要なのです。上場企業にとって、そして上場を目指す企業にとって、なくてはならない機能です。
「名前が載る」ポジションである
内部監査の重要性を象徴するのが、その担当者が上場申請書類に名前を記載されるという事実です。
上場申請の各種説明書類には、内部監査の担当者の名前と経歴が記載され、その能力や素養もチェックの対象になります。つまり、審査する側は、「この会社の内部監査を、誰が、どんな経歴で担っているのか」を見ているのです。だからこそ、社内で手が空いている人を適当に充てる、というわけにはいきません。内部監査には、それにふさわしい能力と経験を持った人材が求められます。
「余った人を回す」ポジションではなく、能力を見込んで配置すべきポジションである。
なお、内部監査は必ずしもフルタイムでなければならない、というわけではありません。拠点が少ない、従業員数が多くないといった会社であれば、時短勤務の担当者が内部監査を担うことも検討できます。重要なのは勤務時間の長さではなく、監査を適切に遂行できる能力と、独立した立場が確保されていることです。
経営へレポートする機能としての重要性
近年、内部監査の役割として、いっそう重視されているのが、経営へのレポート機能です。
内部監査は、現場の運用を独立した立場でチェックするからこそ、組織の中で起きているトラブルや問題点を、いち早く発見できる立場にあります。そして、それを経営層に直接レポートする。この「組織から経営へ、問題を吸い上げるルート」としての役割が、内部監査には期待されています。現場で起きている不正の兆候や、統制の綻びを、経営が把握できないまま放置すれば、それは大きなリスクに発展しかねません。内部監査が、経営の「目」として機能することで、こうしたリスクを早期に察知できるのです。ガバナンスを守るとは、まさにこの機能を指します。
最大の難所──「上場会社基準」とのギャップ
ここからが、IPO準備における内部監査の、最も本質的で、最も見落とされがちな論点です。それは、上場会社の基準で監査すると、IPOフェーズの会社にはマッチしない、という問題です。
内部監査の経験者を、すでに体制が完成している上場会社から迎えたとします。すると、しばしば大きなギャップに直面します。上場会社では当然に整っているものが、IPO準備の会社には、まだ存在しないからです。
・業務のフローチャートがない
・チェックの拠り所となる規程がない
・ルールはあっても、運用されていない
・そもそも社内で内部監査が理解されていない
上場会社なら「あって当然」のものが、まだ何もない状態からのスタートになる。
上場会社で完成された監査をしてきた人ほど、このギャップに戸惑います。チェックしようにも、比較すべき規程やフローチャートがない。ルールがあっても運用が伴っていない。そして、社内には「内部監査とは何か」がそもそも理解されていない。この状態のまま、上場会社の水準で杓子定規に監査をしてしまうと、どうなるか。
答えは明白です。指摘だらけになり、何も進まなくなります。あれもできていない、これも足りない、と指摘ばかりが積み上がり、現場は疲弊し、かえって前に進めなくなる。最悪の場合、この杓子定規な監査が、IPOそのものを遅らせる原因になりかねません。厳格であればよい、というものではないのです。
「まず最低限これだけは」から始める
では、どうすればよいのか。鍵は、IPOフェーズの実態に合わせて、監査のレベル感を段階的に引き上げていくことです。
いきなり上場会社の水準を求めるのではなく、まずは「最低限、これだけは」という水準から始める。その会社の現状で、本当に優先すべき最重要のポイントに絞ってチェックし、そこをクリアしたら、次の段階へ。そうやって、徐々にレベルを上げていくのです。
この段階的なアプローチには、監査する側の高度な判断が求められます。上場会社の完成された姿を知っていること。そのうえで、IPOフェーズの会社の実態を理解し、「いま、どこまでを求め、何を後回しにするか」を見極められること。この両方を兼ね備えていることが、IPO準備の内部監査担当者に求められる、本当の能力です。単に厳しくチェックできるだけでは足りません。会社の成長段階に合わせて、監査の水準を調整できる。その柔軟さと大局観こそが、IPOを前に進める内部監査の要になります。
だからこそ、内部監査には、IPOのフェーズや状況を理解している人が望ましいのです。上場会社の経験だけでも、IPO準備の知識だけでも足りません。その両方の間にあるギャップを理解し、埋めていける人材が、この難しいポジションには求められます。
まとめ
- 内部監査は、社内の運用がルールどおりか独立した立場でチェックし、会社のガバナンスを守る機能。IPO・上場後を通じて不可欠
- 担当者は上場申請書類に名前・経歴が載り、素養もチェックされる。適当な人では代替できない。一方、規模によっては時短勤務での担当も検討可能
- 近年は、組織の問題を経営へ吸い上げるレポート機能としての重要性が高まっている
- 最大の難所は上場会社基準とのギャップ。杓子定規な監査は指摘だらけを生み、IPOを遅らせかねない。「まず最低限これだけは」から段階的にレベルを上げ、IPOフェーズを理解した人材が担うことが望ましい
内部監査は、厳格であればよいという単純な仕事ではありません。会社のガバナンスを守るという重責を担いながら、IPO準備という発展途上の段階では、その厳格さを、あえて成長段階に合わせて調整する。この繊細なバランス感覚が問われる、奥の深いポジションです。次回はいよいよ最終回。これまで見てきた管理部門の各機能を担う「人材の確保」という、IPO準備における最大の実務課題を総括します。
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