前回の記事では、反社チェック(取引先チェック)がIPO準備の入口であること、そして「不適切」の判断と記録、運用フローの設計が要になることを整理しました。今回は、その続編として、実際にどうチェックするのか、という実務の手法に踏み込みます。
「名前を調べるだけでしょう」と思われがちですが、実際にやってみると、これが想像以上に手間のかかる作業です。コーポレート実務の視点で、スタンダードな手法から、継続チェック、規程・外部機関との連携、そして取引先以外への広がりまで、順を追って解説します。
スタンダードは「記事検索+Web検索」の二段階
最も標準的なチェック手法は、記事データベースによる検索と、Web上の検索を組み合わせた二段階のアプローチです。
手法としてはシンプルです。しかし、この二段階が、簡単そうに見えて非常に手間がかかります。
なぜ手間がかかるのか
- 同名のスクリーニングが大変:同じ社名、同じ氏名の別人・別会社が大量にヒットします。検索で出てきた情報が「本当にその取引先・その役員のことなのか」を一件ずつ切り分ける必要があり、ここに最も時間がかかります
- 証憑の保管が必要:「チェックした」という事実を残すため、検索結果の画面や、ヒットの有無を証憑として保管します。何を、いつ、どう検索したかを再現できる形で残す作業が伴います
- 判断のワークフローが要る:何か引っかかったとき、それをどう扱うか。誰に上げ、誰が判断するか。この流れがないと、担当者が一人で抱えてしまいます
これらを丁寧にやると、1件のチェックにもそれなりの時間がかかります。1日の業務のなかで、意識して時間を確保すべき作業です。しかも、多くの場合、このチェックの先には営業の商談が控えています。「早く取引を始めたい」という現場の圧力があるため、後回しにもしにくい。時間はかかるのに急かされる、という板挟みの構造が、この業務の実務的な難しさです。
一度きりでは終わらない──継続チェックの必要性
さらに、反社チェックは取引開始時に一度やれば終わり、ではありません。情報は常に変わります。取引開始時点では問題がなかった相手が、その後に事件を起こしたり、経営陣が変わったりすることは十分にあり得ます。
そのため、継続している取引先については、最低でも年に1回は改めてチェックする必要があります。取引先が増えるほど、この定期チェックの負荷は膨らんでいきます。新規のチェックに加えて、既存分の年次チェックが積み上がる。取引先が数百社にもなれば、手作業での対応は現実的でなくなっていきます。
近年は、記事DB・Web検索・スクリーニング・証憑保管・ワークフローを一体で効率化する反社チェックツールが提供されています。取引先数が多い、あるいは今後増える見込みがあるなら、手作業に固執せず、こうしたツールの導入を検討する価値があります。人手でやり続けることが目的ではなく、確実に・継続的にチェックが回る体制を作ることが目的です。
実務に落とすための「規程・マニュアル」と「外部機関」
手法とツールが決まっても、それを組織の仕組みとして定着させるには、2つの土台が必要です。
① 規程・マニュアルの作成
チェックの対象範囲、実施のタイミング、手順、判断基準、記録の方法、ヒット時のエスカレーションの流れ──これらを規程とマニュアルに落とし込みます。属人的な運用では、担当者が変わった瞬間に品質が揺らぎ、上場審査でも「仕組みとして機能しているか」を問われます。誰がやっても同じ水準でチェックできる状態を、文書で担保することが必要です。
② 外部機関との連携体制
自社の記事検索・Web検索だけでは、判断がつかないケースが必ず出てきます。そこで重要になるのが、外部機関との連携です。代表的なのが、暴力追放運動推進センター(暴追センター)と、特殊暴力防止対策連合会(特防連)です。
これらの機関に加入し、情報提供や相談の窓口を確保しておくことで、自社だけでは判断できない事案について、警察とつながる公的なルートを持てます。上場審査でも、こうした外部機関との連携体制は、反社排除の実効性を示す要素のひとつになります。会費や講習受講などの負担はありますが、体制整備の一環として、加入を検討する価値は高いといえます。
チェックの対象は「取引先」だけではない
ここまで取引先を中心に述べてきましたが、反社チェックの対象は取引先にとどまりません。会社に関わるあらゆる関係者が対象になります。
ネガティブ情報が出たときの「重さ」
ここが、対象を広げることの本当の意味です。もしチェックの過程でネガティブな情報が出た場合、その関係を解消する作業は、取引先以上に重く、時間と労力のかかる課題になります。
いずれも、「見つけたその日に解消できる」ものではありません。だからこそ、2つの原則が重要になります。1つは、入口での防止。契約・雇用・就任の前にチェックを済ませ、そもそも関係を持たないこと。もう1つは、早期の把握。既存の関係にネガティブ情報が見つかった場合は、できるだけ早く把握し、時間をかけて解決に着手すること。上場申請の直前に発覚すれば、解消が間に合わず、準備全体が頓挫しかねません。時間のかかる課題だからこそ、早さがすべてを分けます。
まとめ
- スタンダードな手法は、記事DB(日経テレコン等)検索とWeb検索の二段階。同名スクリーニング・証憑保管・判断ワークフローで、見た目以上に手間がかかる。商談が控えるため後回しもしにくい
- 情報は変わるため、継続取引先は最低でも年1回の再チェックが必要。取引先が多いなら効率化ツールの検討を
- 実務に落とすには、規程・マニュアルの整備と、暴追センター・特防連など外部機関との連携体制が必要
- 対象は取引先だけでなく、従業員(採用面接者)・株主とグループ会社・役員候補にも及ぶ。ネガティブ情報が出れば解消に多大な時間がかかるため、入口での防止と早期把握が鍵
反社チェックの実務は、地味で時間がかかり、しかも「何も出ないこと」が正常という、報われにくい仕事です。しかし、ここで手を抜くと、上場準備の終盤や、最悪の場合は上場後に、致命的な問題として跳ね返ってきます。手法を確立し、ツールと外部連携で効率化し、対象を漏れなくカバーする。その積み重ねが、会社を守る堤防になります。前回と今回の2本が、その堤防づくりの一助になれば幸いです。
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※本記事は一般的な実務上の考え方を整理したものであり、個別の取引可否の判断や関係解消の手続き、上場審査対応を保証するものではありません。反社会的勢力の該当性判断や契約・雇用の解消にあたっては、主幹事証券会社、弁護士、または専門の調査機関等にご相談ください。

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