連載の最終回となる本記事では、TOKYO PRO Market(TPM)上場の「その後」を扱います。第1回で制度を、第2回で監査と開示の実態を見てきました。では、TPMに上場した企業は、その先どこへ向かうのか。かつて「上場したはいいが、その先がない市場」とも言われたTPMは、いま明確に性格を変えつつあります。コーポレート実務の視点で、その変化と展望を整理します。
かつての問い──「なぜ上場したのか」
以前のTPMは、上場して信用力を高めること、それ自体が主目的とされる市場でした。プロ投資家限定で流動性が乏しく、上場後に株式を売買する動きも限られる。資金調達もできない。そのため、「上場したのはよいが、その先はどうするのか」「そもそも、なぜ上場したのか」という問いが、常につきまとっていました。出口の見えない上場、という見方があったのは事実です。
ところが、実務の現場感覚では、この数年で状況が明らかに変わってきています。信託銀行や印刷会社といった、上場実務に近い関係者から話を聞くと、TPMを「終着点」ではなく「通過点」として捉える企業が増えているといいます。TPMの先に、次の展開を描く会社が確実に増えているのです。
TPMの先に見えてきた、2つの出口
いま、TPM上場企業が描く「次の展開」は、大きく2つに整理できます。連載第1回でも触れた、2つの出口です。
重要なのは、これらが「絵に描いた餅」ではなく、実績として積み上がってきていることです。ステップアップ上場は毎年コンスタントに生まれ、Exitを選ぶ企業も出てきています。「出口がない」と言われた市場に、複数の現実的な出口ができた。TPMは、次の展開へ動く企業の実績を持つマーケットへと成熟してきているのです。
追い風になっている「グロース基準の厳格化」
この変化を後押ししているのが、東証グロース市場の上場維持基準の厳格化です。これはTPMを考えるうえで、避けて通れない論点になっています。
東証は2025年9月、グロース市場の上場維持基準の見直しを制度要綱として公表しました。「上場から5年経過後、事業年度末で時価総額100億円以上」という新基準で、2030年3月1日以後に適用される予定です。従来の「上場から10年経過後、40億円以上」から、大幅な引き上げです。
| グロース上場維持基準 | 従来 | 見直し後(2030年3月〜) |
|---|---|---|
| 時価総額 | 上場10年後に40億円以上 | 上場5年後に100億円以上 |
この基準はかなり重いものです。現在グロース市場に上場する約610社のうち、時価総額100億円以上は約3割(約186社)にとどまり、残る約7割・400社超が、このままでは新基準に適合しない状況とされています。すでに上場している企業にとっても、これから目指す企業にとっても、「上場後に高い成長を実現できるか」が、これまで以上にシビアに問われるようになりました。
この厳格化を受けて、TPMを選択肢に加える企業が増えています。実際、2025年上半期のTPM新規上場は21社と、グロース市場の18社を上回りました。いきなり厳しい基準のグロースを目指すのではなく、まずTPMで上場企業としての体制と実績を作り、成長を確かなものにしてから一般市場へ、という段階的なアプローチが、現実味を増しているのです。
あわせて、供給側の事情もあります。J-Adviserの資格を取得する企業が増え、TPM上場支援を営業戦略として積極的に進める関係者が少なくありません。市場を後押しするプレイヤーが増えていることも、TPMの拡大を支える要因になっています。
「一か八か」を避ける、段階的な上場という発想
ここで、上場を目指す企業にとっての実務的な示唆を述べます。
グロース・スタンダード・プライムといった一般市場の上場審査は、求められる内容が多岐にわたります。事業計画の合理性、ガバナンス、内部統制、開示体制、そして成長性の説明──あらゆる面で高い水準を、審査の本番までに整えきる必要があります。準備に数年をかけ、多額のコストを投じたうえで、それでも上場できるかどうかは、審査に臨んでみなければ分からない。いわば「一か八か」で挑むケースも、決して少なくありません。
TPMを経由するアプローチには、いくつもの利点があります。まず、上場企業としての管理体制や開示体制を、実際に運用しながら磨ける。一般市場の審査で問われる「体制が機能しているか」に、実績をもって答えられるようになります。次に、TPMで積み上げた準備資産は、一般市場へのステップアップの際にそのまま活かせるため、二度手間になりません。そして何より、「一か八か」の一発勝負ではなく、段階を踏んで着実に上を目指せる。上場という重大な意思決定における、リスクの取り方が変わります。
もちろん、TPMを経由することが常に最適とは限りません。二段階で上場する分、トータルのコストや時間はかさむ側面もあります。しかし、グロース基準が厳しくなり、一般市場への直接上場のハードルが上がっている今、途中段階としてのTPMは、今後さらに有力な選択肢として増えていってよいのではないかと感じています。
出口から逆算して、準備を設計する
連載を通じてお伝えしてきたことは、TPMは「上場しやすいから選ぶ」市場ではない、ということです。監査は厳格で、開示体制の準備には相当な労力がかかる。そのうえで、その先の出口まで見据えて臨むべき市場です。
だからこそ、TPM上場を目指す段階から、「その先に何を目指すのか」を明確にしておくことが重要になります。ステップアップを狙うのか、Exitを見据えるのか。出口によって、準備段階で重点を置くべき体制も、描くべき成長ストーリーも変わってきます。ステップアップを狙うなら、成長性を示すエクイティ・ストーリーと、一般市場水準の内部統制を早くから意識する。Exitを見据えるなら、買い手が評価しやすい透明性とクリーンな体制づくりに軸足を置く。出口から逆算して準備を設計することが、TPMという市場を最大限に活かす鍵になります。
まとめ
- かつて「出口がない」と言われたTPMは、ステップアップとExitという2つの現実的な出口を持つ、実績あるマーケットへと成熟してきた
- グロース市場の上場維持基準の厳格化(2030年3月〜、上場5年後に時価総額100億円以上)が追い風となり、TPMを経由する段階的な上場が現実味を増している
- 一般市場への「一か八か」の直接上場に対し、TPMを途中段階として使うことで、実績を積みながらリスクを抑えて上を目指せる。今後さらに有力な選択肢になり得る
- TPMを最大限活かす鍵は、出口(ステップアップかExitか)から逆算して、準備段階の体制と成長ストーリーを設計すること
全3回の連載を通じて、TPMが「上場しやすいだけの市場」ではなく、体制と透明性を武器に次の成長へ進むための戦略的な市場であることをお伝えしてきました。上場のあり方が多様化するなかで、TPMは中小・成長企業にとって、現実的で戦略的な選択肢のひとつです。自社の成長ステージと出口の設計に照らして、この市場をどう活かせるか。検討する価値は、これまで以上に高まっています。
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※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の上場戦略やその成否を保証するものではありません。制度の詳細や最新の要件は東京証券取引所の公表情報をご確認いただくか、J-Adviser・監査法人等の専門家にご相談ください。

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