熱中症対策の義務化は『水分補給』で終わりか。猛暑のビジネス慣習の見直しについて。

2025年6月、改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症対策が罰則付きで義務化されました。これまで努力義務にとどまっていた対策が、明確な法的義務になった。労務に携わる立場として、これは会社の責任がこれまでより明確になった、重要な改正だと受け止めています。ただ、この義務化をきっかけに、もう一歩踏み込んで考えるべきことがあると感じています。

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何が義務化されたのか

今回の改正では、暑さ指数(WBGT)が28℃以上、または気温が31℃以上の環境下で、一定時間以上にわたって行う作業などが対象とされ、事業者に熱中症の早期発見・重篤化防止のための体制整備が義務付けられました。違反した場合には罰則も定められています。背景には、職場での熱中症による労働災害の増加と、初期症状の放置や対応の遅れによる重症化があります。会社が「やっておくべき」だった対策が、「やらなければならない」対策に変わったわけです。

対策が「水分補給」「休憩」で止まっていないか

一方で、現場での対策が「水分補給」や「休憩の確保」にとどまっているケースが多いのも実情です。もちろんこれらは基本であり、欠かせません。実際、多くの会社では、外出のある社員に水分補給や塩分摂取を呼びかけているはずです。

しかし、見落とされがちなのが「服装」の問題です。商談や訪問の場面では、いまだにスーツやネクタイの着用が求められる慣習が根強く残っています。気温が体温を超える日も珍しくない今、長袖の上着とネクタイで炎天下を歩くこと自体が、熱中症リスクを大きく高めています。水分補給を呼びかけながら、一方で真夏にスーツを求める。この矛盾に、そろそろ向き合うべきではないでしょうか。義務化を機に、ビジネスマナーとしての服装規範そのものを、社会全体で見直す必要があると考えます。

「そもそも猛暑日に訪問する必要があるのか」

さらに踏み込むと、「そもそも猛暑日に、対面で訪問する必要があるのか」という問いも立てるべきだと思っています。

コロナ禍で、オンライン商談が一気に普及しました。あの時、私たちは「会わなくても仕事は進む」ことを学んだはずです。同じように、危険な暑さの日は訪問を見送り、オンラインに切り替える。これを「失礼」とするのではなく、むしろ相手の安全に配慮した、誠実な対応として受け入れる。そうした文化を、社会の側が育てていく必要があります。訪問する側だけの心がけでは変わりません。訪問を受ける側も含めて、慣習を変えていくことが求められます。

個人の心がけから、制度の見直しへ

熱中症対策を、個人の心がけだけに任せていては限界があります。「水を飲もう」「無理をするな」という呼びかけは大切ですが、それだけでは、スーツ着用や対面訪問といった慣習そのものは変わりません。服装規範や働き方の慣習を、制度やルールとして変えていく。会社としての服装方針を見直す、猛暑日のオンライン対応を正式に認める、といった形で仕組みに落とし込むことが必要です。

今回の義務化は、その大きなきっかけになるべきだと感じています。法的責任が明確になった今だからこそ、「最低限の義務を果たす」にとどまらず、働き方の慣習そのものを問い直す。それが、労務に携わる立場から見た、この改正の本当の意義ではないでしょうか。

参考・出典

  • 改正労働安全衛生規則(2025年6月1日施行・職場における熱中症対策の義務化)厚生労働省

本記事は報道されている事実をもとにした筆者個人の見解です。具体的な熱中症対策の義務内容については、厚生労働省の情報や、管轄の労働基準監督署・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

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