フェラーリが2026年5月、ブランド初の電気自動車「Luce(ルーチェ)」を公開しました。同時に注目されたのが、CEOが完全自動運転を明確に否定した姿勢です。電動化は受け入れる一方、自動運転は採らない。一見すると矛盾するこの判断を、私はむしろ極めて戦略的な経営判断だと受け止めています。
何が起きたのか
フェラーリは初のフルEVモデル「Luce」を発表しました。価格は55万ユーロ超とされ、デザインの大胆な路線転換には「フェラーリらしくない」という批判も多く上がりました。しかしCEOは、批判の一方で既存顧客・新規顧客の双方から受注を獲得していると明らかにしています。
ここで見落とされがちなのが、電動化と同時に示された「自動運転は採らない」という線引きです。パワートレインの電動化は選択肢として受け入れる。しかし、運転する楽しさという価値の核心は守り抜く。安全支援技術は肯定しつつ、完全自動運転には踏み込まない。「何でも変える」のでも「何も変えない」のでもなく、変えるものと変えないものを明確に分けている。この切り分けこそが、ブランド戦略の本質だと考えます。
コーポレートの視点で見る「変えない判断」の難しさ
コーポレートの立場から経営を見てきて感じるのは、企業の意思決定で本当に難しいのは「変える判断」よりも「変えない判断」だということです。
世の中のトレンドに乗らないという選択は、社内外から「時代遅れ」と批判されるリスクを伴います。新しい技術を採用しないことへの説明責任は、採用することへの説明責任よりも、はるかに重い。それでも、自社の顧客が何にお金を払っているのかを見極め、価値の源泉を守り抜く。フェラーリの顧客は移動手段ではなく「自ら操る体験」を買っているのだから、自動運転化はむしろ価値の毀損になる——この論理は一貫しています。
「変えない」が思考停止になっていないか
一方で、注意すべき点もあります。「変えない」ことが、単なる思考停止になっている企業も少なくないということです。
変えないことで価値が高まるブランドなのか、それとも変えないと生き残れないサービスなのか。この見極めは、まったく性質が異なります。フェラーリの場合は前者であり、だからこそ「自動運転を採らない」という判断が戦略になる。しかし同じ「変えない」でも、市場環境の変化から目を背けているだけなら、それは衰退への道です。両者は表面的には同じ「現状維持」に見えて、中身はまったく違います。
変えるべきものを見極め、変えてはいけないものを見極める。そのうえで責任を持って決断すること。これこそが経営の仕事なのだと、改めて考えさせられる事例でした。
参考・出典
- 参考・出典
- 「フェラーリ初のEV、デザイン酷評も受注堅調-CEO『乗れば分かる』」Bloomberg、2026年5月28日
- 「フェラーリ初EV、『らしさ』巡り大論争」日本経済新聞、2026年5月30日
※本記事は報道されている事実をもとにした筆者個人の見解であり、特定の企業や投資判断を推奨するものではありません。

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